2023年に読んだ本レビュー
明けてからの投稿となりましたが、2023年に読んだ本のレビューとオススメをピックアップしてみたいと思います。
都市住民としてちょうどよく暮らすには?
後年振り返れば、2023年は「東京(のような都市)に住みながらも、」というスタンスを決めた年になるのではないかと思います。
仕事柄魅力的な地域や島との出会いは尽きないのですが、そこにあるものを羨むので終わるのではなく、「今ここ」であって欲しい状況を生み出すことに踏み出した、それが自分の場合は東京だった、ということです。
以下では、そんな中で特にピックしたい本を数冊選んでみたいと思います。
2023年ピック本
前段からの流れを汲み、これから都市でどうちょうどよく暮らせるか?を考えるヒントになりそうな本として、まずは以下3冊をピックします。
『Slowdown』は人口増加、技術革新、気候変動、債務などが減速し安定化に向かっているということを大量のデータで論証している一冊。
主張に合うように数字を取っていないか?という疑いは要りそうですが、あらゆることが加速度的に増しているという直感に反する内容で、「もしそうだったら」と違う視点を得るのにとても示唆的な本だと思います。
『スマート・イナフ・シティ』は、一見中立的に見えるテクノロジーが帯びる政治性に目を向け、都市住民が自分たちの幸福につながるよう意識して選択する必要性を指摘しています。
最先端のテクノロジーに全ての解決を委ねることはできず、欲しい未来を手にするためには地道な対話・合意形成といったウェットなプロセスが大事であるという主張は心に留めたいと思いました。
その意味で『くらしのアナキズム』の、問題や課題の解決を権力を有する誰かに委ねるのではなく、生活者である自分たち自身で考え、一緒に模索できる仲間と手を携え、向き合おうという訴えも、根本のところは共通していると言えそうです。
湯澤規子さん
2023年最も多く読んだ著者は、歴史地理学の観点から食について著作を出されている湯澤規子さんで、単著を5冊読みました。
論旨の運びも文章も引き込むものでどれも面白かったのですが、初めの一冊としてあえて選ぶならこちらでしょうか。
自分自身子どもたちがそれぞれのお菓子を持ってきて食べる光景を直接目にしており、それがこういう「食」の位置づけの反映になっているのか、と改めて気付かされました。
ほかの著作も面白いので、ぜひどれからでも読んでみてください。
両極端な2冊
また、リストの中で両極端なのですが、どちらも「へぇ、そうか!」と参考になったものとして以下2冊をピックします。
『ベンチャーキャピタル全史』は、その名の通りアメリカのVCがどのような変遷を経て今に至るのかを追った一冊です。
人の密接なつながりが丹念に追われていて「それは地理的に狭いエリアで盛り上がるわけだわ」と納得がいきました。
VCと出資者との関係や、それゆえにスマッシュヒットを求める背景も本書を読むとよく分かって、行動原理を理解することができます。このあたりは出資を受けようと考えるときにも参考になるんじゃないでしょうか。
一方『マザーツリー』の方は、森林を形成する樹々同士がどのように「コミュニケーション」しているかを、著者自身の研究史を通じて明らかにしている著作。
問い立て―仮説ー実験ー検証のプロセスが謎解きのようで、続きが気になってどんどん読めました。
動けないと言われる植物ですが、個体を超えたネットワーク全体を生命ととらえると、どれだけダイナミックに命脈をつないでいるかが伺い知れてとても興味深かったです。
海から見る歴史
続いては島関連の本も一冊ピック。
屋久島に伝わる「まつばんだ」という古謡が帯びる琉球音階の謎を追いかけて見えてきた、海洋を通じた交流史の本。
一般的な通史ではほぼ陸上を行き来した歴史がメインストリームになっていますが、黒潮の海の往来を辿ると今の自分たちが考える以上に活発な交流があったことが分かります。
これまたミステリーのようなストーリー展開が魅力的ですし、海からの歴史という視点も新しくて面白い一冊でした。
子どものために棚にさしておきたい一冊
ネイマールの通訳を務め、今ではプロサッカー選手の語学はじめとする海外生活準備のサポートをする著者の半生を振り返った本。
自分で考えて選んだ道を行けば危なっかしく見えてもどうにかなるもんだというメッセージや、プロサッカー選手も海外でプレーするためにこんなに準備・勉強しているんだという裏側が覗けたりして、いつか分からないけど子どもがふと手に取ったら何か感じるかも、という一冊だと思いました。
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今年はすっと順番が付けられず、ベスト〇選みたいな並べ方にはなりませんでした。
あっち行ったり・こっち行ったりのレビューとなりましたが、ピンとくる一冊があったようであれば嬉しいです。
2024年もマイペースに読み進めて、また1年経ったら振り返りたいと思います。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
※2023年読んだ全冊※
【食】
「美味しい」とは何か (著:源河亨)
自分のために料理を作る:自炊からはじまる「ケア」の話 (著:山口祐加)
「食べること」の進化史 (著:石川伸一)
フードテック革命 (著:田中宏隆)
地域の食をブランドにする! (著:金丸弘美)
食べものがたりのすすめ (著:湯澤規子)
ウンコはどこから来て、どこへ行くのか (著:湯澤規子)
胃袋の近代 (著:湯澤規子)
7袋のポテトチップス (著:湯澤規子)
「おふくろの味」幻想 (著:湯澤規子)
【農】
肥料争奪戦の時代 (著:ダン・イーガン)
東京農業クリエイターズ (著:小野淳)
渋谷の農家 (著:小倉崇)
農家はもっと減っていい (著:久松達央)
食と農のプチ起業 (著:小野淳)
【ジェンダー】
アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? (著:カトリーン・キラス・マルサル)
さらば、男性政治 (著:三浦まり)
戦う姫、働く少女 (著:河野真太郎)
マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か (著:松田俊介)
【ケア】
ケアの社会学 (著:上野千鶴子)
医療の外れで (著:木村映里)
他者と生きる (著:磯野真穂)
ケアとは何か (著:村上靖彦)
聞く技術、聞いてもらう技術 (著:東畑開人)
シンクロと自由 (著:村瀬孝生)
【人と経済】
次の時代を、先に生きる (著:高坂勝)
減速して自由に生きる (著:高坂勝)
女性と協同組合の社会学 (著:佐藤康幸)
生き方を変える女たち (著:生活クラブ生活協同組合神奈川)
Slowdown減速する素晴らしき世界 (著:ダニー・ドーリング)
強欲資本主義は死んだ (著:ポール・コリアー)
ルポ雇用なしで生きる (著:工藤律子)
ルポつながりの経済を創る (著:工藤律子)
コンヴィヴィアリティのための道具 (著:イヴァン・イリイチ)
「能力」の生きづらさをほぐす (著:勅使川原真衣)
安いニッポン (著:中藤玲)
【人と自然】
「自然」という幻想 (著:エマ・マリス)
エネルギーをめぐる旅 (著:古舘恒介)
生きのびるための流域思考 (著:岸由二)
人間がいなくなった後の自然 (著:カル・フリン)
川と人類の文明史 (著:ローレンス・C・スミス)
2050年の世界地図 (著:ローレンス・C・スミス)
GREEN BUSINESS (著:吉高まり)
ゴリラからの警告 (著:山極寿一)
ヒトの原点を考える (著:長谷川眞理子)
アッテンボロー 生命・地球・未来 (著:デイヴィッド・アッテンボロー)
マザーツリー (著:スザンヌ・シマード)
【民主政治】
自由への手紙 (著:オードリー・タン)
日本の保守とリベラル (著:宇野重規)
「くうき」が僕らを呑みこむ前に (著:山田健太)
ポピュリズムとは何か (著:水島治郎)
ラジオと戦争 (著:大森淳郎)
スマート・イナフ・シティ (著:ベン・グリーン)
くらしのアナキズム (著:松村圭一郎)
【武蔵野】
武蔵野樹林Vol.1 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.2 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.3 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.4 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.5 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.6 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.7 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.8 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.9 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.10 (著:角川文化振興財団)
武蔵野樹林Vol.11 (著:角川文化振興財団)
多摩と江戸 (著:大石学)
東京の自然史 (著:貝塚爽平)
【ビジネス】
ベンチャーキャピタル全史 (著:トム・ニコラス)
マネジメントへの挑戦 (著:一倉定)
デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 (著:山口義宏)
経営者の孤独 (著:土門蘭)
パワララ上司を科学する (著:津野香奈美)
できる逆引き Goole アナリティクス4 (著:木田和廣)
これならわかる!Googleアナリティクス4アクセス解析超入門 (著:志鎌真奈美)
スリップの技法 (著:久禮亮太)
【文芸】
図書館のお夜食 (著:原田ひ香)
未明の砦 (著:太田愛)
家族シアター (著:辻村深月)
境遇 (著:港かなえ)
Nのために (著:港かなえ)
スティル・ライフ (著:池澤夏樹)
スノウ・クラッシュ(下) (著:ニール・ステーヴィンソン)
スノウ・クラッシュ(上) (著:ニール・ステーヴィンソン)
そして私たちの物語は世界の物語の一部となる (著:ウルワシ・ブタリア)
哲学の門前 (著:吉川浩満)
水中の哲学者たち (著:永井怜衣)
南洋のソングライン (著:大石始)
いのちは誘う (著:宮本隆司)
【その他】
リトルプレスをつくる (著:石川理恵)
野中モモの「ZINE」小さな私のメディアをつくる (著:野中モモ)
ネイマール:父の教え、僕の生きかた (著:ネイマール)
東大8年生 (著:タカサカモト)
歴史がおわるまえに (著:與那覇潤)
アイヌ、風の肖像 (著:宇井眞紀子)
アイヌときどき日本人 (著:宇井眞紀子)
「いき」の構造 (著:九鬼周造)
大学改革の迷走 (著:佐藤郁哉)
ビジュアル・シンカーの脳 (著:テンプル・グランディン)
湯あがりみたいに、ホッとして (著:塩谷歩波)
2022年読んだ本おススメ4選&まとめ
2022年もそろそろ終わり。
ということで、今年読んだ本の中を振り返って、選りすぐりのおススメを4冊ご紹介したいと思います。
全体総括などは後回しにして、まずはおススメからいきましょう!
1.『土と内臓』(著:デイビッド・モントゴメリー)
今年、世界の見え方を一番揺さぶられたのが本書だったと思います。
地質学者の夫と、生物学者の妻の共著で、土の中と人間の腸のなかで微生物がどんな働きをしていて、いかにそれらが似通っているか、そして農業や食を通じて相互に影響し合っているか、を解き明かしている本でした。
土の中と人間の腸が似通っているって、最初に聞くと「なんのこっちゃ?」と思いませんか?
でも栄養の素を分解し、生物が摂取可能な形に変えるという働きは、土の中でも人間の腸の中でも共通して行われていることです。というか、そのプロセスがないと、生き物(植物も人間も)栄養を体内に取り込むことができない。
それを媒介しているのが微生物たちなのです。
微生物が生物の量としても、種の種類としても圧倒的多数を占めていることを初めて知りました。人間の体の外側はもちろん、内側の壁にもものすごくたくさんの微生物が棲んでいて、それが周辺の環境とも連綿とつながっていく。
そもそも自分の細胞より多い微生物のネットワークに包まれているヒトの「個人」とはいったいなんなのか?を考えさせられますし、人と環境を実体としてつないでいる存在があるという事実にもビックリさせられます。
「ドローダウン」や「リジェネレーション」など、気候変動対策の書籍に環境再生型農業や食のサプライチェーンに関する章が含まれていて、正直ピンと来にくかったのですが、この本を読んで一気に解像度が上がりました。
食べることを変えることが、どんなに自分(ヒト)と地球にインパクトを及ぼせるかにも気付かせてくれる本書、もしまだ読んでなければぜひ読んでほしい一冊です。
2.『現代経済学の直観的方法』(著:長沼伸一郎)
数理物理が専門の著者の手による資本主義経済のとらえ方についての一冊。(とは言え小難しい数式は出てきませんのでご安心を。)
特に自分が惹かれたのは、最終章「資本主義の将来はどこへ向かうのか」で触れられている『縮退』という概念です。『縮退』とはもともと物理学の専門用語のようですが、本書では「量としては拡大していても、システムの質としては劣化している状態」を指しています。
具体的な例としては、一部の巨大企業だけが成長を独占し中小以下の企業がつぶれていく状態(でも経済総体としては量が伸びる)や、一部の生物種が他の種を圧倒している状態が挙げられています。
なぜ後者が質的劣化なのか直観的には捉えられると思いますが、そこに明快な根拠を与えてくれるのが「縮退」という概念です。
この「縮退」は、反独占や分散型を目指す根拠、多様性を尊重した方がいい理由を与えてくれる、とてもパワフルな概念です。
全章はちょっと…という方は最終章だけでもいいので、この「縮退」という概念に触れてみてもらえたらな、と思います。
3.『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(著:川内有緒)
3冊目は今年の本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』です。
お話しはタイトルの通り、全盲の白鳥さんと美術館めぐりをするストーリーで始まります。「なるほど、目の見えない人と一緒に鑑賞すると、それぞれが見ているものを言語化するので、一種対話型鑑賞みたいになるのね」と読み進めますが、途中からそれだけではないことに気付きます。
そもそも障害とは何か?が問い直されていたり、表現すること・表現を受け止めることの繊細さまで話が広がっていきます。
映画にもなるみたいですが、ぜひ著書も読んでみてください。
4.『輝山』(著:澤田瞳子)
最後の一冊は文芸分野から。確か日経新聞の書評で紹介されていたのがきっかけで読んでみた本です。
舞台は江戸時代の石見銀山。江戸から派遣されてきた役人、金吾の目を通して描かれる、ヤマ(鉱山)で生きる人々の群像劇です。
金吾はもともと現地の代官の身辺を探るために派遣されたのですが、石見の人々と触れ合い日々過ごす中で次第に実情が明らかになっていくというストーリー展開で、続きが気になりすぎて途中で読むのを止められませんでした。(多分3日くらいで一気読みしました)
登場する人物たちもみんな魅力的。交わされるやりとりは活き活きとしていて、世界に引き込まれます。
これぞ王道の小説という小説。すっきり気持ちよくなる読後感の物語を読みたいな、という時にぜひおススメしたい一冊です。
以上、2022年読んだ本からおススメの4冊でした!
その他読んだ本や、全体のまとめ・振り返りも下に続きます。もし「もっとなんかない?」と気になる方はよかったら引き続きお付き合いください。
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さて、2022年に読んだ本は合計104冊。久々の100冊超えでした。
読んだ本を大まかにジャンル分けすると、【土】、【森・林業】、【農業】、【持続可能性・エコロジー】、【哲学・歴史】、【反市場主義】、【ケア】、【ジェンダー】、 【社会変革】、【街・街づくり】、【東京・品川】、【島の地誌】、【ビジネス書】、【NFT】、【エッセイ】、【小説】になります。
大きな流れとして、今年は、「都市/経済」と「自然/ケア」をどう折り合わせるかが大きなテーマだったように思います。
〇適切に手を入れる
ことに都市と自然については、なるべく自然に還せば済むという単純な話しではなく、適切に人の手を加えることが必要なのだ、というのが新しい発見だったと思います。
このあたりは東京チェンソーズさんの本(「今日も森にいます」・「山をつくる」)や「樹木の恵みと人間の歴史」、「植物と叡智の守り人」に教えてもらいました。
「世界遺産 奄美」でも、自然を破壊しつくさないよう適度に関わりながら自然資源を使ってきた島の環境文化こそ大切に残さなければいけない財産とされていて、島の価値観や生活文化を伝える新しい意義を感じたところです。
〇食というジャンルの発見
そんな自然と都市の関りで、自然保護に参加する以外のもっと日常的な方法として見えてきたのが、「食」というジャンルでした。
これが土と内臓のところで書いた微生物を通じたつながりであり、また農業のあり方次第で土(と植生)に不可逆的なダメージを与えかねない、という理解でした。
いきなり読むとちょっと眉唾に思えるかもしれませんが、新書で手軽に読みたければ「腸と森の「土」を育てる」がさっと読めます。
どこか遠くの土に深刻なダメージを与えかねないような食物ではなく、なるべく近くで土や環境を保全するような方法で育てられた食物を選ぶ―それが都市にいながらにして自然環境の保護に参加する一番日常的な方法なんじゃないかと、最近考えています。
〇ケアを権利として考える
経済―ケア軸では、つくづく性別役割分担による弊害が大きすぎるなぁと痛感しました。ケアを免除されたとも言えるし、切り離されたとも言える男性たちだけが意思決定を握り続けるから、いつまでたってもヒトが経済に subordinate してしまう。
アメリカ人の日本人研究者が書いた「縛られる日本人」は冷静にその構図を分析していました。
ケアに従事する便宜を「家庭に」(≒「女性に」なわけですが)供与すべしと企業に義務付けるのではなく、ケアし・ケアされる権利を「個人に」付与し、侵害するような働かせ方を禁じるくらい踏み込んでもいいのではないかと、個人的には考えています。
・・・今年はさすがに冊数が多いので、まとめだけでは特筆したい本がこぼれ落ちてしまいます。
ということでここからは、ここまで触れられなかったけど、どうしても一言残しておきたい本たちをピックアップしていきます。
・「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」(著:東畑開人)
まさに「読むセラピー」。相変わらず読ませます。ホントに東畑さんの本は好きです。
・「これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。」(編」SSIR Japan)
社会を変えるのに、全てを自分でやりきらなくてはいけないわけではない。力の合わせ方はいろいろあって、自分がやれる・やりやすい・力を発揮できるポジションを狙えばいい、そんなヒントになる本です。
・「私たちのサステナビリティ」(著:工藤尚悟)
サステナビリティってなんだっけ?というのをそもそも論に立ち返って考える手掛かりに。風土と結びついているのも個人的には大好きです。笑
(本書の下敷きのひとつに「福岡伸一、西田哲学を読む」がありますが、こちらも頭で理解するのではなく体得することの大切さを説いていて、ちょっとマニアックですが面白いですよ~)
あぁ、まだまだお伝えしたい本は尽きませんが、さすがに長文になってきたので、泣く泣くここまでにします!
2022年は読書会にも参加しましたが楽しかったなぁ。
「あの本読んだよ!」という対話も、そろそろ対面で直接できるようになってきそうですね。
そんな機会が増えることも楽しみにしつつ、来年を迎えたいと思います。
最後までお付き合いいただきありがとうございました~!
<以下全104冊のリストです!>
【土】
土と内臓(著:デイビッド・モントゴメリー)
菌類が世界を救う(著:マーリン・シェルドレイク)
土を育てる(著:ゲイブ・ブラウン)
土 地球最後のナゾ(著:藤井一至)
大地の五億年(著:藤井一至)
よくわかる土中環境(著:高田宏臣)
腸と森の「土」を育てる(著:桐村里紗)
【森・林業】
植物と叡智の守り人(著:ロビン・ウォール・キマラー)
樹木の恵みと人間の歴史(著:ウィリラム・ブライアント・ローガン)
屋久島の山守 千年の仕事(著:高田久夫)
今日も森にいます 東京チェンソーズ(著:青木亮輔)
山をつくる(著:菅聖子)
林業男子(著:山﨑真由子)
神去なあなあ夜話(著:三浦しをん)
神去なあなあ日常(著:三浦しをん)
虚構の森(著:田中淳夫)
【農業】
わら一本の革命(著:福岡正信)
豊かな暮らしと”小さな農業”(著:望月健)
その農地、私が買います(著:高橋久美子)
そのとき、日本人は何人養える?(著:篠原信)
【持続可能性・エコロジー】
リジェネレーション(著:ポール・ホーケン)
私たちのサステナビリティ(著:工藤尚悟)
ブルーエコノミーに変えよう(著:グンター・パウリ)
グッド・アンセスター(著:ローマン・クルツナリック)
1秒の世界(著:山本良一)
海のいのちを守る(著:渋谷正信)
都会の里海 東京湾(著:木村尚)
世界は恋人 世界はわたし(著:ジョアンナ・メイシー)
チッソは私であった(著:緒形正人)
イントゥ・ザ・プラネット(著:ジル・ハイナース)
【哲学・歴史】
弱いニーチェ(著:小倉紀蔵)
福岡伸一、西田哲学を読む(著:池田善昭)
20世紀のグローバル・ヒストリー(著:北村厚)
【反市場主義】
現代経済学の直観的方法(著:長沼伸一郎)
賃労働の系譜学(著:今野晴貴)
公民館のしあさって(著:公民館のしあさって出版委員会)
なぜ、脱成長なのか(著:ヨルゴス・カリス)
無縁・公界・楽(著:網野善彦)
21世紀の楕円幻想論(著:平川克美)
共有地をつくる(著:平川克美)
言葉が鍛えられる場所(著:平川克美)
ぼくたちに、もうモノは必要ない。(著:佐々木典士)
何もしない(著:ジェニー・オデル)
不便益のススメ(著:川上浩司)
疲労社会(著:ピョンチョル・ハン)
【ケア】
目の見えない白鳥さんとアートを見にいく(著:川内有緒)
なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない(著:東畑開人)
言葉を失ったあとで(著:信田さよ子)
ケアの倫理とエンパワメント(著:小川公代)
合理的配慮(著:川島聡)
まともがゆれる(著:木ノ戸昌幸)
ケアするのは誰か?(著:ジョアン・C・トロント)
「わかりあえない」を超える(著:マーシャル・B・ローゼンバーグ)
ネガティブ・ケイパビリティ(著:帚木蓬生)
【ジェンダー】
もうひとつの声(著:キャロル・キリガン)
いのちの女たちへ(著:田中美津)
おっさんの掟(著:谷口真由美)
オッサンの壁(著:佐藤千矢子)
日本の女性議員(著:三浦まり)
「家族する」男性たち(著:大野祥子)
家事は大変って気づきましたか?(著:阿古真理)
モテないけど生きてます(著:ぼくらの非モテ研究会)
縛られる日本人(著:メアリー・C・ブリントン)
【社会変革】
これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。(著:SSIR Japan)
社会的インパクトとは何か(著:マーク・J・エプスタイン)
9割の社会問題はビジネスで解決できる(著:田口一成)
コミュニティ・オーガナイジング(著:鎌田華乃子)
【街・街づくり】
場づくりから始める地域づくり(著:飯盛義徳)
ゲストハウスがまちを変える(著:渡邊崇志)
横浜中華街(著:山下清海)
【東京・品川】
東京「スリバチ」地形散歩(著:皆川典久)
品川区史2014(著:東京都品川区)
品川区の歴史(東京ふる里文庫16)(著:品川区文化研究会)
発掘写真で訪ねる 港区・品川区古地図散歩(著:坂上正一)
【島の地誌】
ダイビングのエスノグラフィー(著:圓田浩二)
沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか?(著:佐藤圭一)
世界遺産 奄美(著:小野寺浩)
忘れられた日本人(著:宮本常一)
天の蚕が夢をつむぐ(著:谷本雄治)
【ビジネス書】
アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方(著:仲山進也)
SNS×メディアPR100の法則(著:笹木郁乃)
聞く技術(著:宮本恵理子)
売上最小化、利益最大化の法則(著:木下勝寿)
日本の美意識で世界初に挑む(著:細尾真孝)
【NFT】
NFTの教科書(著:天羽健介、増田将史)
NFTビジネス見るだけノート(著:宝島社)
NFTビジネス 超入門(著:森川ミユキ)
メタバース(著:加藤直人)
東大教授が挑むAIに「善悪の判断」を教える方法(著:鄭雄一)
【エッセイ】
なぜ私たちは理系を選んだのか(著:桝太一)
理系アナ桝太一の生物部な毎日(著:桝太一)
つたなさの方へ(著:那須耕介)
日本でわたしも考えた(著:パーラヴィ・アイヒヤール)
空洞のなかみ(著:松重豊)
【小説】
輝山(著:澤田瞳子)
やさしい猫(著:中島京子)
マチネの終わりに(著:平野啓一郎)
日食・一月物語(著:平野啓一郎)
本心(著:平野啓一郎)
きいろいゾウ(著:西加奈子)
夜が明ける(著:西加奈子)
オーラの発表会(著:綿矢りさ)
はぐれんぼう(著:青山七恵)
献灯使(著:多和田葉子)
NFTの教科書を
図書館で待ちに待った一冊、やっと読めました。
出版から1年経っているので、動きの速いこの分野、きっと現時点では変わってきていることもあるかもしれません。
それでも、ひとまず読み終えた今の雑感をまとめてみたいと思います。
1.enforcerがいないと効力ないのでは
NFTというのはあくまでライセンス証と理解しました。なのでNFTを保有していても、対象データを所有するわけではありません。
いってみれば、商品についているタグのイメージでしょうか。
また対象がデータだから、排他的に占有することがそもそも難しいということもありそうです。
そうなると、対象データをNFT保有者以外の誰かがコピーしたり、発行者がNFTに書き込んだルールに反する利用をしたりしても、究極的にはNFT保有者には差し止める手立てがなく、泣き寝入りするしかありません。
NFTの保有が間違いなく効力を発揮するためには、NFTで合意された契約を enforceする主体が必要でしょう。
enforcerがいない場合にどうなるかは、悲しいかな、現実の国際社会がいい事例です。一番固くあってほしい国境線さえ、ルールを無視する主体に反故にされてしまいます。
2.目的に対してベストなソリューションなのか?
NFTを使って組織できるDAOの、会社や国を越えて参画したいプロジェクトに参画できる、貢献に応じてリワードがあるという仕組みは、これから時代のプロジェクト企画・運営に役立ちそうではあります。
ただ、DAOのエントリーに際して、暗号資産を手に入れてNFT買わなきゃいけないというステップって、本当に必須なのでしょうか?コミュニケーションツールにも結局Discord使うわけですし・・・
たとえば自分がDAOで何かを始めたい場合、ベストな布陣を組もうと候補者に声かけてOKもらっても、「じゃ、Coincheckに口座開いて、Metamaskインストールして、NFT買ってください」とは正直頼みづらいです。
すでにその準備ができている人の中から人選するとなると、範囲が狭まってしまいます。
また、アートにしても、原作者に2次流通の価値の一部が流れるというのはいい仕組みだと思います。ファンコミュニティを作るのにもぴったりそうです。
DAOにしても、アート・ファンコミュニティにしても、必要とされているのはスマートコントラクトの仕組みで、それを実現するのに今のNFTが本当にベストソリューションなのか、もっとユーザーフレンドリーな形で実装できないのか、立ち止まって考えてみてもいいのではないかと思います。
クレジットカードで決済できるくらいにならないと、ユーザーに求める負担がハードルになって広がらなさそうだなぁという印象です。
3.それでも腹は減る
国境をまたいで広がるメタバース内での契約、決済手段としてNFTが有望なのはよく分かりました。そして、メタバース経済圏も今よりきっと広がるでしょう。
でもユーザーが365日24時間のうちどこまでをメタバース過ごすことが想定されているのでしょう?
目指す水準として、どのくらいまでが適正なのか、という視点もあるように思います。
つまり、これは倫理・正義の問題です。
アバターが豪奢な家に住み、華やかなファッションに身を包み、最強の武器でバトルし、バーチャルオフィスに出勤していても、ユーザーのリアルな世界が豊かなものでなかったならば、それは望ましいことなんでしょうか。
アジールとしてそういう時空が必要な場合があるのはわかります。でも、メタバースにリソースを割くあまり現実世界がケアされなくなり始めると、それは違うのではないか?と思わざるを得ません。
生きてる以上、腹は減るし、出るものは出る。
自然環境の持続させるためには、現実世界の消費・流通を改めていかなければいけない。
物理的存在物に対して、なさねばならぬことが山ほどあるのが実情だと思います。
そんな中、AR的なメタバースならまだしも、VR的なメタバースにどのくらいリソースを費やすことが、地球ひいては人類そのものにとって幸せな結末をもたらすのか?
マインクラフトの家が20万で売れるかもしれないけど、それを買うのに20万費やしたいと思う人が果たしてどのくらいいるのか?よしんば欲しがる人がすごく増えたとして、それは本当に望ましいことなのか?
※マインクラフトについては、別途考えるところがあるのでそれはまた稿を改めて書きたいと思います。
メタバース経済圏は、現実世界との距離という物差しでみれば、金融資本主義以上の離れっぷりです。
確かに資本主義の新しいフロンティアたりえそうですが、まだその方向のフロンティアを盛大に広げたいんだっけ?という疑問が湧きます。
SDGsで、社会的な土台以上・環境的な制限未満の経済目指すんじゃなかったっけ?
On the ground
決してNFTを全否定しているわけではないのです。スマートコントラクトは発想としても仕組みとしても優れていると思います。
でもNFTであれば何でもOKということはないし、手放しで礼讃するのもちょっと違いそうだぞと感じています。
レッセ・フェールで大丈夫と考えるのは、非現実的であり非倫理的でもありそうです。
契約のenforcementや決済の融通性(一般の通貨でも参加・買い付けができるようにする)を考えると、残念ながらというべきか、公的主体の関わりは必ず必要になるのではないかと思います。
現実世界にいい影響をもたらすサービスを促進し、悪影響をもたらすサービスは自然に淘汰されるか規制するような介入も求められるでしょう。
最近、NFTの売れ行きがよろしくないというニュースを目にしました。折からの金融引き締めの余波もあるかもしれませんし、NFT自体の減滅期に入ったのかもしれません。熱狂が一息ついたこのタイミングはより現実世界との接点を深める議論をする好機なのではないでしょうか。
NFTが現実世界に根を持ち、健全に発展する未来がやってきますように。
2021年読んだ本おススメ4選&まとめ
2021年も押しせまってまいりました。
今年も読んだ本の中からおススメをご紹介します。
続けて読んだ本全体の振り返りを通して、今年どんなことを考えてきたのかもまとめてみたいと思います。
では早速おススメの本から!
1.存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く(著:キャロライン・クリアド=ペレス)
2021年一番インパクトがあったのは本書。
ジェンダーについては少なくとも自分の行動においては無配慮なことをしないようにと注意してきましたが、それでは全く足りないということを思い知らされました。
自動車の設計、都市計画の基礎となる交通量調査、薬の治験などさまざまな分野において女性が原データに含まれておらず、デザインや意思決定において不可視化されているがゆえに寿命に現れるくらい不利益を被っている、という指摘がこれでもかとされています。アンコンシャス・バイアスとはよく言われますが、気付かされると世界の見方が一変するような衝撃を受けます。
社会的なイシューを扱った本としても読めますが、ビジネスを考えるうえでも見過ごされているインサイトをつかむヒントになるのではないかと思います。無関係な人はきっと一人もいないテーマの本なので、ぜひ一人でも多くの方に手に取っていただきたい一冊です。
2.エンデの遺言―根源からお金を問うこと(著:河邑 厚徳)
サステナビリティへの関心の高まりから資本主義の問い直しがさかんになされています。その多くは経済成長至上主義を改めコミュニティや連帯を大切にせよという結論に至るように思いますが、「べき論」の域を出ない印象があります。
有名な児童文学『モモ』の著者として知られるミヒャエル・エンデは、利子の存在こそが私たちを経済成長へ追い立てるとし、時が経つとともに価値が減ずるお金に関心を寄せていました。(この視点が『モモ』にも反映されています)1999年にNHKで放送された同タイトルの番組を文庫化版したのが本書です。
経済成長至上主義を追い続けるのが持続的ではないとして、どうしたらそこから脱することができるのか方策を考えるうえでとても有効な補助線となる内容を含んだ一冊だと思います。
3.マザリング 時代の聖なる場所(著:中村佑子)
著者ご本人の妊娠出産期の身体感覚を記録することから始まり、ケアが必要な存在に寄り添うこと全般(それを著者は「マザリング」と呼ぶ)について考察を広げている一冊。およそ自分には経験できない身体感覚が言語化されていて、完全に新世界が開ける読書体験でした。それと同時に、乳幼児を連れて電車で移動する際に感じる居づらさなどを通じ、ケアする人/される人の居場所が普通の社会の中にいかにないか、またその言葉が奪われているかにも気付かされます。
個人的には、経済より優先させなければいけないのはケアなのではないかと考え始めるきっかけになった本なのでおススメさせていただきました。
4.絶唱(著:湊かなえ)
数少ない今年読んだ文芸書からは湊かなえさんの絶唱をおススメします。4章立ての小説で、各章別の主人公がトンガを舞台に接点を持ちストーリーが進んでいきます。湊かなえさんと言えば『往復書簡』のようにラストでの大逆転が圧巻ですが、本書も最終第4章で「はっ」とする、それも他の作品とも全く違う形で、展開をみせます。ネタバレになるのであまり詳しくは書きませんが、湊さんの意図を思うと「これを書いたのですね」と何度も心の中で語りかけずにはいられません。
深い小説が読みたい気分という方におススメの一冊です。
どうでしたでしょうか?
気になる本があったらぜひお手に取ってみて下さいね!
では、以下今年読んだ本総まとめと振り返りです。
種をまたいだケアが大事
最初のジャンルは経済、政治、社会分野。脱成長の先で、抑圧のない誰一人取り残されない社会を求める時、では人は何のために集まって社会を形成するのかしら?(コミュニティの範囲を超えて)ということを考えたくてこのジャンルの本を読んでいたように思います。
今のところは、ヒトという種を越えて動植物や自然も含めてよりよくケアすること、がその答えなんじゃないかと考えています。
【代替経済】
- ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト(著:ケイト・ラワース)
- サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル(著:安居昭博)
- 田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らし (講談社+α文庫)(著:渡邉 格)
- エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)(著:河邑 厚徳)
- 人新世の「資本論」 (集英社新書)(著:斎藤 幸平)
- 世界は贈与でできている――資本主義の「すきま」を埋める倫理学 (NewsPicksパブリッシング)(著:近内悠太)
- 武器としての「資本論」(著:白井 聡)
- ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論(著:デヴィッド・グレーバー)
- 美術、市場、地域通貨をめぐって (水声文庫)(著:白川 昌生)
【ケア】
- マザリング 現代の母なる場所(著:中村佑子)
- 縁食論(著:藤原辰史)
- 交わらないリズム: 出会いとすれ違いの現象学(著:村上靖彦)
- 心はどこへ消えた?(著:東畑 開人)
- まとまらない言葉を生きる(著:荒井 裕樹)
- 「利他」とは何か (集英社新書)(著:伊藤 亜紗)
- ケアのたましい 夫として、医師としての人間性の涵養(著:アーサー・クラインマン)
【コミュニケーション】
- NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版(著:マーシャル・B・ローゼンバーグ)
- LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる(著:ケイト・マーフィ)
このLISTENは、これから自分が老害とならないようにするにはどんなスタンスを取ればいいのか考えるいいヒントになりました。何しろ最近ディスプレイの細かい字を読むのがつらくなってきたこともこれあり、これからは目より耳を活かしていきたいと思います。
【政治】
- ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか??民主主義が死ぬ日 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-13)(著:ベンジャミン・カーター・ヘット)
- コロナ危機の政治-安倍政権vs.知事 (中公新書, 2620)(著:竹中 治堅)
【サステナビリティ】
- 「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる―――赤字知らずの小さなベンチャー「日本環境設計」のすごいしくみ(著:岩元 美智彦)
- このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景(著:滝沢 秀一)
マシンガンズというコンビで芸人でもある滝沢秀一さんが、副業で従事するゴミ清掃員の仕事を通じて感じる社会の矛盾を描いた本。毎日のように行っているゴミ捨て・ゴミ出し、さかのぼっては消費のあり方を考え直すきっかけになる一冊です。(次の続編も面白いです)
- やっぱり、このゴミは収集できません ~ゴミ清掃員がやばい現場で考えたこと(著:滝沢 秀一)
- 世界は食でつながっている You and I Eat the Same(著:MAD)
- FOOTPRINTS(フットプリント) 未来から見た私たちの痕跡(著:デイビッド・ファリアー)
- 最近、地球が暑くてクマってます。 シロクマが教えてくれた温暖化時代を幸せに生き抜く方法(著:水野敬也)
- DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法(著:ポール・ホーケン)
- 日本のSDGs:それってほんとにサステナブル?(著:高橋 真樹)
【自然再生】
【ジェンダー】
- 存在しない女たち: 男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く(著:キャロライン・クリアド=ペレス)
- ひれふせ、女たち:ミソジニーの論理(著:ケイト・マン)
【格差】
- 正義と差異の政治(サピエンティア) (サビエンティア)(著:アイリス・マリオンヤング)
- 実力も運のうち 能力主義は正義か?(著:マイケル・サンデル)
- 海をあげる (単行本)(著:上間 陽子)
- 裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち (at叢書)(著:上間陽子)
- 二番目の悪者(著:林 木林)
- 釜ヶ崎合唱団<労働者たちが波乱の人生を語った>(著:釜ヶ崎炊き出しの会
【子育て】
- 子育ての経済学:愛情・お金・育児スタイル(著:マティアス・ドゥプケ)
「生存競争」教育への反抗 (集英社新書)(著:神代 健彦) - これからの男の子たちへ :「男らしさ」から自由になるためのレッスン(著:太田 啓子)
- ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)(著:広瀬 友紀)
- 子どもの算数,なんでそうなる? (岩波科学ライブラリー 302)(著:谷口 隆)
土地の風土と旅
コロナも2年目となり、改めて旅ってなんだ?ということを考え直しました。
【風土】
- 三澤勝衛著作集 風土の発見と創造〈3〉風土産業(著:三澤 勝衛)
風土学ことはじめ(著:谷川健一) - 風土学序説―文化をふたたび自然に、自然をふたたび文化に(著:オギュスタン ベルク)
- まちを視る風土を活かす (学陽選書)(著:童門 冬二)
- 人類がたどってきた道 “文化の多様化"の起源を探る (NHKブックス)(著:海部 陽介)
- 日本人はどこから来たのか? (文春文庫)(著: 海部陽介)
- 文明の生態史観 (中公文庫)(著:梅棹 忠夫)
【旅】
- 旅する哲学 ―大人のための旅行術(著:アラン・ド・ボトン)
- 旅の効用: 人はなぜ移動するのか(著:ペールアンデション)
- 0メートルの旅 日常を引き剥がす16の物語(著:岡田悠)
- パッケージツアーの文化誌(著:吉田 春生)
【地方】
- 日本はどこで間違えたのか: コロナ禍で噴出した「一極集中」の積弊 (KAWADE夢新書)(著:藤山浩)
- 半農半Xという生き方【決定版】 (ちくま文庫)(著:塩見 直紀)
- 地方の論理 (岩波新書)(著: 小磯修二)
- 福島モノローグ(著:いとうせいこう)
【島】
- 何もなくて豊かな島―南海の小島カオハガンに暮らす (新潮文庫)(著:崎山 克彦)
- 危機の時代こそ 心豊かに暮らしたい(著:石田 秀輝)
- 離島の本屋 22の島で「本屋」の灯りをともす人たち(著:朴 順梨)
- 離島の本屋ふたたび 大きな島と小さな島で本屋の灯りをともす人たち(著:朴順梨)
- 屋久島発、晴耕雨読(著:長井 三郎)
その他
今年も人文系が少なくなってしまいました・・・
来年こそはもうちょっと小説読みたい!
- 未来を実装する――テクノロジーで社会を変革する4つの原則(著:馬田隆明)
- トランス・サイエンスの時代―科学技術と社会をつなぐ (NTT出版ライブラリーレゾナント)(著:小林 傳司)
- レンブラントの身震い (新潮クレスト・ブックス)(著:マーカスデュ・ソートイ)
- スマホ脳 (新潮新書)(著:アンデシュ・ハンセン)
- 和算-江戸の数学文化 (中公選書 114)(著:小川 束)
【ビジネス】
- ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと(著:小山田 育)
- 経験価値マーケティング―消費者が「何か」を感じるプラスαの魅力(著:バーンド・H. シュミット)
- ビジネスと人生の「見え方」が一変する 生命科学的思考(著:高橋祥子)
- サーバントリーダーシップ(著:ロバート・K・グリーンリーフ)
- プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる(著:尾原 和啓)
- 三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾(著:近藤 康太郎)
【哲学】
【文芸】
【国際】
- 人間の土地へ (集英社インターナショナル)(著:小松由佳)
長々とお付き合いいただきありがとうございました!
また来年もたくさんの良書と出会えることを楽しみにしています。
では、皆さん良いお年を!
2020年読んだ本おススメ3選&まとめ
波乱だらけだった2020年も間もなく終わり。
1年の振り返りということで、今年読んだ本のまとめをしてみたいと思います。
まずは今年読んだ本の中からのおススメ3選を!
1.絶望を希望に変える経済学(著:アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロ)
2020年のベスト1冊は間違いなくこの本。今日重要とされている問題―移民、自由貿易、環境破壊、経済成長、不平等などーについて、最新の経済学の知見からその影響をどう分析できて、解決の方向性を示せるかを論じています。最近の政治や政策の状況に照らして、このままでは経済学は誰からも信用されなくなってしまうのではないかという危機感を抱いた経済学者である著者2人が問題に向き合う姿勢はとても誠実です。またもともと開発経済や貧困削減が専門分野ということもあって、社会で弱い立場に立たされた人たちに心を寄せ、解決へのアプローチの仕方を論じる姿勢も素晴らしいと思いました。(本書の第9章のタイトルは「救済と尊厳のはざまで」です)
昨年のFACTFULLNESSに匹敵する良書なのでぜひご一読を!
2. タイタン(著:野崎まど)
次いでは文芸分野からのおススメ。AI・ロボットが発達し人間はもはや働かなくてもよくなった未来において、人間がAIのカウンセラーとして「労働」することになって・・・という設定の小説。ネタバレになるので詳細は控えますが、いろんな読み方できるストーリーでぐいぐい読み進められます。設定や登場する未来の技術も面白かったです。
3.手の倫理(著:伊藤亜紗)
おススメ3選の最後は伊藤亜紗さんの手の倫理。「ふれる」と「さわる」-何気なく使い分けられている触覚にまつわる2つの言葉の違いから、触覚=手の倫理を立ち上げていく一冊です。意外な切り口から人と人の関わり方の核心に迫っていくアプローチは著者ならではの独特のセンスだなぁと思います。道徳と倫理の違いや視覚障害ランナーへの伴走体験など、途中過程で取り上げられる考察・素材も興味深く、いろんな気付きがもらえる本でした。
続いて以下は上記3冊を含む今年読んだ本全体を概観してみての「こんなこと考えた1年だったんだなぁ」という振り返りをしてみたいと思います。
多分つらつら長くなるので、なにはともあれ面白そうな本見つけたい!という方は、2020年に読んだ本一覧がoffvolaの本棚 (offvola) - ブクログ から見られますので、気になるタイトルをクリックして頂くと早いかと思います。
大きなテーマは「声を聞く」
今年読んだ本を大括りに分野分けしてみると、こんな感じになります。
①民主政治
- 未来をはじめる: 「人と一緒にいること」の政治学 (著:宇野 重規)
- 日本の地方議会-都市のジレンマ、消滅危機の町村 (著:辻 陽)
- 政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡 (著:待鳥聡史)
②日本のメディア
- 日本・1945年の視点 (著:三輪 公忠)
- 「撃ちてし止まむ」―太平洋戦争と広告の技術者たち (著:難波 功士)
- PANA通信社と戦後日本 (著:岩間 優希)
③コミュニティ・コミュニケーション
- コミュニティを問いなおす (著:広井 良典)
- アナザーユートピア「オープンスペース」から都市を考える (著:槇文彦)
- 遅いインターネット (著:宇野 常寛)
- 未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために― (著:ドミニク・チェン)
- 謎床: 思考が発酵する編集術 (著:松岡正剛)
- 人は語り続けるとき,考えていない: 対話と思考の哲学 (著:河野哲也)
④市場主義再考
- ほどよい量をつくる (著:甲斐かおり)
- 鎌倉資本主義 (著:柳澤 大輔)
- 僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた (著:アダム・オルター)
- 絶望を希望に変える経済学 (著:アビジット・V・バナジー)
⑤貧困・社会保障
- 大人のための社会科 (著:井手 英策)
- 日本の税金 第3版 (著:三木 義一)
- 社会保障再考 〈地域〉で支える (著:菊池馨実)
- 絶望しないための貧困学 (著:大西連)
- 生活保護リアル (著:みわよしこ)
⑥弱さ
- ほんのちょっと当事者 (著:青山ゆみこ)
- 悪について誰もが知るべき10の事実 (著:ジュリア・ショウ)
- もうダメかも――死ぬ確率の統計学 (著:マイケル・ブラストランド)
⑦地誌・地域
- 風土―人間学的考察 (著:和辻 哲郎)
- 歩いて読みとく地域デザイン (著:山納 洋)
- 渋谷の秘密_12の視点で読み解く (著:隈 研吾)
- セゾン 堤清二が見た未来 (著:鈴木 哲也)
- ポスト消費社会のゆくえ (著:辻井喬)
- 実践から学ぶ地方創生と地域金融 (著:山口 省蔵)
⑧生き物の視点
- 生物に世界はどう見えるかー感覚と意識の階層進化 (著:実重重実)
- 虫とゴリラ (著:養老 孟司)
⑨アート
- 人類を前に進めたい チームラボと境界のない世界 (著:猪子寿之)
- 学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・ シンキング・ ストラテジーズ (著:フィリップ・ヤノウィン)
- 教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方 (著:鈴木有紀)
政治や民主主義に関する本は去年から読み続けています。拾い上げられるべき声が見落とされているんじゃないか、先を見越した議論をして結論を出さなければいけないことが先送りされ火を吹いた時に「なんとなく」決められることになりそうな予感がする、低投票率・低関心などから、政治が不活発でシステムとしてワークしていない感があるのだと思います。でも民主主義のシステムの不活性をうっちゃったままにすると、英米のように大きな分断でにっちもさっちもいかなくなるか、強いリーダー・組織による迂回解決を求めると戦前の二の舞になりそうで、どうしたらちゃんとワークするのか?は気になり続けているところです。
特に戦前において、戦争を選んでしまったプロセスでメディア・新聞社の影響は大きかったのではと感じていて、それで日本のメディアに関する本も読みました。しかもメディア・広告分野の人材は戦前・戦後の連続性も割とあって、今の社員にどう自分たちの過去を総括して伝えているのか・伝えていないのか、が気になっています。
コミュニティやコミュニケーションに関する本は、フォーマルな政治プロセスや既存メディアを補完・代替するものとしてどう作用しうるか考える意味で読んだみたいです。
市場主義再考の本も、似たような関心、ナイーブな資本主義へのオルタナティブを考えたくて読みました。
貧困・社会保障分野は拾い上げるべき声としてどんなものがあるか、実情を知りたいという動機で読んだのだと思います。これらは2020年の頭に読んだ本が多いのですが、要は受益も負担ももっとユニバーサルにすべき(個人で貯蓄するより、公金として社会全体で蓄え分ける)という示唆がありました。(こんなまとめも書いています
貧困・格差・社会保障に関する本を読みました - UchiyamaTakayuki’s blog)
期せずしてその後コロナに見舞われ、緊急時の公共からの支援が too small、too lateであることが露見したのですが、ああやっぱりそうだったか、という印象を強くしました。
地誌・地域のジャンルは、ここ最近その土地のその土地らしさ、オーセンティシティをどう見出し伝えていくか、に関心があってその関連で読んだ分野です。オフィスがある渋谷がひとつ足元と言えるのですが、その渋谷の再開発について「うーんどうなのかなぁ」というところも感じていて、そう言えばそもそも渋谷の渋谷らしさをちゃんと考えたことがないことに気付きました。それで一連の「渋谷本」を読んだのですが、意外な歴史があっていわゆる地誌の面白さに気付かされる経験になった次第です。
アート分野は、対話型鑑賞についての本を何冊か読みまして、それもこの地誌の発掘に結び付くかなぁと考えてのことでした。
生き物の視点というのは、昨年読んだ正義論の本の中で、公平性は人間以外の生物までも及ぶのか?というような議論があって、生物から見た世界の見え方はどんなものだろ、と思って読んでみたジャンルでした。
これをぜーんぶまとめてみると、2020年の読書の大きなテーマは「声を聞く」ーある時は社会で弱い立場にある人の、ある時は土地の、ある時は生き物や自然のーであったとまとめられるように思います。
プロデュース、サステナビリティ、デジタル
上記以外のもう少し普段の仕事に近いところでは、こんな本を読みました。
- 天才の思考 高畑勲と宮崎駿 (著:鈴木敏夫)
- ジブリの仲間たち (著:鈴木 敏夫)
- サステナブルツーリズム (著:藤稿 亜矢子)
- 観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード (著:村山 慶輔)
- 5G 次世代移動通信規格の可能性 (著:森川 博之)
- アフターデジタル2 UXと自由 (著:藤井 保文)
ツーリズムのサステナビリティはいやが応にも考えさせられましたし、そのための役回りや方法論として、プロデュース、デジタル分野の本を読んでみた、というところだと思います。
文芸書はたった4冊・・・
- 小林賢太郎戯曲集 STUDY ALICE TEXT (著;小林 賢太郎)
- タイタン (著;野崎まど)
- あなたが私を竹槍で突き殺す前に (著;李龍徳)
- メゾン刻の湯 (著;小野美由紀)
ああ、いくらなんでもちょっと少なすぎた気がします・・・。
来年はもう少し文芸書読む冊数増やして、生活に潤いを加えたいと思います。
さて、来年はどんな本との出会いが待っているやら。
来年もよき読書体験が待っていますように。
手の倫理(著:伊藤亜紗)を読みました
どもる体の伊藤亜紗さんの新刊を読みました。
今回のテーマは、「さわる」と「ふれる」の違いから見える触覚=手の倫理。
触覚の特徴とされているのは、距離ゼロ、持続性、対称性の3点。
そのうち、距離ゼロについては、「さわる」は中に入り込む感覚をともなわない距離ゼロだけれども(例:医者が患者の身体にさわる)、「ふれる」は内奥にある自然や動きまで届く距離マイナスである(例:彫刻にふれる)。
対称性については、「さわる」は「さわるときにさわられる」という対称性が成り立つけれど、「ふれる」はふれられる側が主導権を手放すことであり、圧倒的にふれる側への信頼を求められるという点で非対称な関係に置かれている。
持続性はコミュニケーションの様態として表れ、さわるは伝達×物理的なモード、ふれるは生成×物理的なモードである。(物理的の反対は記号的で、伝達×記号的が言語)
さわるよりふれるの方が深いコミュニケーションとなるけれど、別々の身体であるという最奥部まで突き詰めると、そこはさわることしかできない。
ふれあいを越えて、異質さそのものにふれることに、自-他のより深い交感が訪れる。
触覚は同じからだをメディアとしているため、フレームの混同をまねき、うっかりリアリティを書き換えてしまうことすらある。
それだけ状況依存的だからこそ、触覚は道徳的(いつも普遍に○○であるべきとすること)ではありえない=道徳に杓子定規に従うことを相対化する。また、触覚が暴力的なコミュニケーションとならないためにも、相手とも不断の調整を行う生成的なものでなければならない。
だから、触覚については、複雑な状況に向かい合い、進むべき道を求めて格闘していく=倫理的であるしかない。
ふれに行きたいのだけれど、相手に「さわられた」と思われるのではないか、と恐れ、さわるだけ=さわり、にとどめていることもたくさんあるなぁ。
委ねることで入ってくることがある、という視覚障碍者の方のお話しが出ていたけれど、もっと上手にふれられるような身の置き方ができるようになりたいと思いました。
政治改革再考(著:待鳥聡史)を読みました
1980年代終わりから立て続けに実施された一連の改革―選挙制度、行政改革、地方分権、日銀・大蔵省、司法改革ーについて、何が目指されていたのか、実際の変革にどう落とし込まれたのかを大局的に振り返った一冊でした。
著者ご自身指摘されている通り、個別の領域について深く掘り下げる分析は多くありますが、全体を俯瞰し、その共通項や組み合わさった時の作用を捉えようとする本書のスタンスは特異で、貴重なものだと思います。
本書において著者は、目指す理念のようなものとしての「アイデア」と、それを実際に制度化するプロセスがステークホルダーがもともと有していた問題意識や多数派形成に影響を受けながら進むという「土着化」、2つの概念を使って分析を進めています。
それぞれの改革の「土着化」の詳細については本文に譲りますが、著者はこれら改革は「近代化」というアイデアを共有していたと指摘します。「近代化」とは、
幕末開国期あるいは少なくとも戦後初期から連綿と続く、日本の社会に生きる人々の行動と、その集積としての日本の政治行政や社会経済のあり方を、より主体的かつ合理的なものにすることを望ましいとする考え方
です。
政治改革は決して一時のブームや熱病、時のリーダーの思惑、新自由主義への布石としてなされたのではなく、日本社会のあり方を振り返り一貫したアイデアの下なされた取り組みであったのです。しかし、土着化の中で各領域間の不整合が生じ、また着手されなかった領域(参議院、地方政府内の政治制度)の影響もあって、改革が低く評価され、改革疲れや行き過ぎ批判を招いている、としています。著者は政治のあり方を望ましいものに変えていくには、不断の改革に取り組まねばならず、明確なアイデアの下、土着化による影響を少しでも抑えることが必要だ、として本書を結んでいます。
一連の改革が始まってから30年が経過した今時点で考えると、アイデアとしての「近代主義」そのものの妥当性の再検討も必要になってきているのではないかと思います。それぞれ自律的な主体同士で政治権力を作り出し、変化する環境に即時対応していく、という姿が目指されていたのですが、恐らく最近では個人も社会もそこまで合理的ではないし、マッチョでもないという見方が強まってきているのではないでしょうか。特に格差の拡大と情報環境の変化は、社会関係を切り結ぶ構想の前提として「己の足で立つ個」という個人像をおくことの無理さを強めているように見受けられます。
では何が?ということになりますが、個人的には「個の尊厳」や「個の尊重」がアイデアとなっていって欲しいなと思います。
それにしても著者の本は、構造が明快なので読み進めやすく、内容もすっと入ってきます。首相一強や、コロナ禍でいまいちなサービスデリバリーを露呈する行政など、なぜ今あるところに立ち至っているのかを大局的につかみたいという方におすすめしたい一冊です。