2018年読んだ本10選

f:id:UchiyamaTakayuki:20181230231057j:plain

 

いよいよ2018年も大詰め。ということで毎年恒例の今年の読書振り返りと、その中のおススメ本の紹介をしたいと思います。

〇概観 ~ Overview

2018年に読んだ本は合計78冊でした。大まかにジャンル分けをするとこんな感じになります。

  • Alternative Economy・・・『うしろめたさの人類学』(著:松村圭一郎)、『ゆっくり、いそげ』(著:影山知明)、『WE ARE LONELY BUT NOT ALONE』(著:佐渡島庸平)など
  • 芸術・文化・・・『漂流郵便局』(著:久保田沙耶)、『住み開き』(著:アサダワタル)など
  • 社会・・・『エルサレムアイヒマン』(著:ハンナ・アーレント)、『引き裂かれた大地:中東に生きる六人の物語』(著:スコット・アンダーソン)など
  • 小説・戯曲・・・『中庭の出来事』(著:恩田陸)、『一九八四年』(著:ジョージ・オーウェル)など
  • 政治・・・『分裂と統合の日本政治』(著:砂原庸介)、『黙殺 報じられない’無頼系独立候補”たちの戦い』(著:畠山理仁)など
  • 地域/都市論・・・『アメリカ大都市の死と生』(著:ジェイン・ジェイコブス)、『あそびの生まれる場所ー「お客様時代」の公共マネジメント』(著:西川正)など
  • デザイン・・・『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。―未来を思索するためにデザインができること』(著 : アンソニー・ダン、フィオーナ・レイビー)、『新しい分かり方』(著:佐藤雅彦)など
  • 哲学・・・『勉強の哲学』(著:千葉雅也)、『メルロ・ポンティ 触発する思想』(著:加賀野井秀一)など
  • ビジネス書・・・『サブスクリプションマーケティング』(著:アン・H・ジャンザー)、『おもてなし幻想』(著:マシュー・ディクソン)など

※もし万が一「全冊見てみたいよ!」という方は下記ブクログ本棚からご覧いただけます。

booklog.jp

 

こうして見てみると自分の全体的な問題関心は引き続き、個人個人がその人自身として居られる包摂的(inclusive)な社会にどうしたら近づけるのかというところにあるのだと分かります。

この全78冊から今年は「おススメしたい本」と「自分に気付きが大きかった本」に分けてご紹介したいと思います。

〇他の人におススメしたい本4選

まずはオススメ本から。

 1.民主主義の条件(著:砂原庸介

民主主義の条件

民主主義の条件

 

分かるようで分からない政治の仕組みの基礎を分かりやすく解説してくれている一冊です。学校の教科書には載っていないリアルな動きを教えてくれるほか、あまりフォーカスされにくい政党制度や選挙管理に光を当てていて「そんなことも関わってくるんだ!」と目の覚める思いがしたことを覚えています。大人の教科書としてぜひ一読されることをおススメします。

 

2.認知症フレンドリー社会(著:徳田雄人)

認知症フレンドリー社会 (岩波新書)

認知症フレンドリー社会 (岩波新書)

 

 もちろん人数が増えていくから大事ということもありますが、認知症は社会現象である(本人の認知機能の低下だけをもってして発症とされるのではなく、社会生活に支障が生じたときに認知症とされる)ととらえると、社会側の受容力のなさが生き辛さを抱える人を生み出すという構図はあまねく存在していて(例えば発達障害)、およそ社会に暮らす誰もが関りがあるイシューであると気付かせてくれるところがおススメのポイントです。

 

3.牛と土(著:眞並恭介)

牛と土 福島、3.11その後。 (集英社文庫)

牛と土 福島、3.11その後。 (集英社文庫)

 

 3.11後、退避区域において牛を育て続ける牛飼いの人々を追ったルポです。ニュースや新聞でそのような取り組みをされている方々がいると情報としては接したことがあるかと思いますが、どんな人たちがどんな想いをもちならどんな現実と向かい合っているのかが丁寧に追われていて、今この時に何が起きているのかという現実味が一気に高まります。

 

4.私とは何か(著:平野啓一郎

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

 

自分は何がしたいのか、どれが本当の自分なのかとふと迷うことは折に触れあると思います。その最中にいる時はよって立つ足場がなくなるような苦しさも覚えるでしょう。確固たるゆるぎない自分などなく 、誰しも人との関係性の中で複数の「分人」を持っていてその組み合わせこそがその人を作るのだという本書を読むと、「こうでなくては」という肩の力が抜けて心が軽くなる人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 

〇気付きが大きかった本6選

続いて自分にとって気づきが大きかった本です。

1.貧困の戦後史(著:岩田正美)

貧困の戦後史 (筑摩選書)

貧困の戦後史 (筑摩選書)

 

断片的に言葉だけ知っていた貧困の現れの実相を通史的に知れたことと、貧困者は自立的であろうとしすぎていて社会がそれを促しているという指摘が気づきポイントでした。

 

2.私はすでに死んでいる(著:アニル・アナンサスワーミー) 

私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳

私はすでに死んでいる――ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳

 

<自己>がゆがむ各種障がいを神経科学の知見から分析しそれによって<自己>の源泉に迫っている本です。統合失調症自閉症など完全に頭の中に閉じていそうな障がいでさえ、自分の身体についての知覚が関わっているというのが大きな気づきでした。

 

 3.コミュニティ難民のススメ(著:アサダワタル)

コミュニティ難民のススメ ― 表現と仕事のハザマにあること ―

コミュニティ難民のススメ ― 表現と仕事のハザマにあること ―

 

いろいろな私として職業区分にとらわれず複数のコミュニティに関わっていく実践例を見せてもらったことと、その一般にはなんだかよく分からないあり方にコミュニティ難民という呼称を付けてくださったことにありがとうと言いたい気持ちです。

 

4.ゲンロン0 観光客の哲学(著:東浩紀

ゲンロン0 観光客の哲学

ゲンロン0 観光客の哲学

 

どちらかというと搾取的と見られあてにもされない「観光客」という関わり方が、きちんとつながりを生みうるし現状を相対化する契機にもなりうると、観光の潜在価値を言語化されていたのが気付きのポイントでした。

 

5.熱海の奇跡(著:市来広一郎)

熱海の奇跡

熱海の奇跡

 

 何をどういう順番でやっていくべきかというまちづくりフェーズ分けを提示されていたのがとても参考になりました。

 

6.遅刻してくれてありがとう(著:トーマス・フリードマン

まだ上巻しか読めていませんが、それだけでもグローバルなデジタルフローへの貢献(take するだけではなく、contributeしなければならない)をしないと完全に取り残されるという危機感を自分事として抱かせてもらいました。

 

 いかがでしたでしょうか?
何かピンとくる一冊があったようであれば、とっても嬉しいです。
来年もまた心と頭のおもむくままに本を読み続けたいと思います!

TRUST 世界最先端の企業はいかに<信頼>を攻略したか(著:レイチェル・ボッツマン)

前著「シェア」でシェアリング・エコノミーを提唱した著者の次著。シェアリング・エコノミーを可能にした「信頼」をめぐる革命がいかに起こっているのかを考察した一冊です。

 

「信頼」には、毎日顔を合わせるようなコミュニティ内に閉じた「ローカルな信頼」、国家や企業などにより垂直的に提供される「制度への信頼」、そして個人間で水平的に流通する「分散された信頼」という3つの形態がある。

 

現在企業の相次ぐ不正や政治家・役人の腐敗・スキャンダル、聖職者による虐待など、制度への信頼は低下の一方であるのに対して(特に今はインターネットのおかげで透明性が高まりすぐに露見し拡散される)、その信頼の空隙を埋めているのがレビューとレーティングに裏打ちされる分散された信頼である。

 

分散された信頼の世界は、ある意味透明性が過剰とも言える世界かもしれない。

サービス提供者または利用者としての評価、デジタルな行動履歴、取引実績のデータがそれと分かる形またはそうでない形で収集され、他人に開示される。

それが善意のもとに集められ使用されれば有益な結果を導き(あやふやな所有権に苦しめられていた貧困層に確たる財産的基礎をもたらし、公式な履歴がないため信用情報がなく金融サービスから疎外されていたこれまた貧困層マイクロクレジットへのアクセスを開くなど)、悪意にさらされれば息苦しいまでの管理社会や独占的地位を乱用するプラットフォーマーを生む。
中国で導入が進められている社会信用制度をなんて恐ろしいと思っていたけれど、 フェイスブックやグーグルによるフィルタリングの”操作”の度合い(ニュースフィードのアルゴリズム設定やボットによるレコメンデーション機能など)は、人の行動を特定の価値観のもと方向付けるという点で、社会信用制度と紙一重の差しかないとも言える。あのディストピアは、他の国に住む私たちにとってもそう遠い話ではない。

ブロックチェーンも特定の有力者の改竄・濫用を防ぐという意味では分散された信頼の最も有望な活用法かもしれないが、一切書き換えができないという特徴は一時の気の迷いから来る人生の汚点を残してしまったが最後一生背負い続けなければならないという重圧をもたらす。

 

分散された信頼をベースにした世界しか持たない一本足な生き方は、苦しい。

きっと全てがデータ化されアーカイブされるデジタル世界からの避難所となるような、フィジカルな空間・時間を求める人たちがこれから増えるのではないだろうか。

 

TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか

TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか

 

 

牛と土(著:眞並恭介)を読みました

東日本大震災原発事故により避難区域に指定された土地で、政府からの殺処分命令に同意せず牛を飼い続ける牛飼いの姿を追ったルポルタージュ

 

本書を読んで改めて感じたのは、”情報として知ること”と、”理解すること”は全くレベルが違うということ。

震災後、実際に時の政府から家畜の殺処分命令が下ったということはニュースや新聞で見聞きして知ってはいたと思います。でもこうしてルポという形で、実際に命令を受けた牛飼いの人たちが、自身当時どんな状況にあり、どんな想いでその命を受け入れた/拒絶したかを提示されると、全く実相までは分かっていなかったのだ、ということを思い知らされました。

 

もちろんたとえ本書を読んだからと言って、『本当の意味で理解した』なんてことはま言えないだろう、ということも分かっています。でも少なくとも具体的な名前入りで経緯に触れたことは、その人たちに起きたこと・今なお直面しているであろうことに働かせることができる想像力を強くしてくれたのは間違いないと思います。

 

食用としての価値は失った牛たちが農地維持や除染、生き証人としての役割を担う貴重な存在たりえることや、チェルノブイリの事故の際は家畜を殺さず輸送したことなど、本書を読まなければ分からなかったことが実にたくさん出てきます。

原発のメリットを非対称に受け取っていた首都圏の人たちこそが読むべき一冊ではないかと思います。

 

牛と土 福島、3.11その後。 (集英社文庫)

牛と土 福島、3.11その後。 (集英社文庫)

 

 

生きる技法(著:安富歩)を読みました

特に家族関係の悩みから、心身に不調をきたすほどの生きづらさを抱えた著者が、より生きやすく生きるための技法について15の命題を掲げている一冊です。

 

詳しくは本書に譲るとして、特に印象的だった命題3選は下記の通り。

 

「自立とは、多くの人に依存することである」

「愛は自愛から発し、執着は自己愛から生じる」

「自由とは、思い通りの方向に成長することである」

 

確かその文脈で引用されていたと記憶していますが、頼れる・顔を出せるコミュニティをたくさん持っていることがその人自身にとっての強みとなる、というのはアサダワタルさんの『コミュニティ難民のすすめ』に通ずるところがあります。

自分の足場がひと所しかないというのは、そこに忍従することを余儀なくされる恐れがあり、確かに自立性を損なう危うさを孕んでいます。

平野啓一郎さんのいう”分人”のように、多様な他者関係(とそれに対応した顔)の束である自分、という存在の方がしなやかな強さを持ちうるのでは、と常々考えています。

 

また、愛と執着の違いについての本書の説明もなるほど、と思わせる面白いものでした。

愛される=自分のそのままの存在で受け止められる・受け入れられること。

執着される=自分の人格のうち相手にとって都合の良い部分だけを切り取られて、他の部分は捨てられること、さらに相手にとって都合の悪い部分を持っていることに、罪悪感を抱かされること。

まずは自分自身をそのまま受け入れられているか(=自愛)、もしくは自己嫌悪を糊塗するために自己陶酔に陥っているか(=自己愛)の違いが、他人を愛することができるか・執着するかの分岐点になっている、ということです。

情報が氾濫し、SNSで過剰接続にさらされる今の環境下で、自分を守り生きていくためにこの”自愛”のメソドロジーはとても大切になっていくように思います。

教育の文脈でよく言われる自己肯定感を育むに近いかもしれませんが、大人になってからでも何らかのきっかけで”自愛”を見失いかけても取り戻すための my methodを、日頃からひとりひとりが見つけておく必要があるのではないでしょうか。

 

ご自身の経験に引きつけて書かれているということもあり、とても読みやすい一冊です。

自分が弱った時、あるいは周りに弱った人がいる時の備えとして、一読してみるといいんじゃないかと思います。

 

生きる技法

生きる技法

 

 

地域が稼ぐ観光(著:大羽昭仁)を読みました

博報堂で文化人と旅をする”カルトラ”を立ち上げるなどし、のち独立した著者の経験を踏まえた地域×観光論。

 

タイトルにある通り、地域が観光を活性化する目的は「稼ぐこと」で、いくら人数だけを追いかけても仕方がない。
地域にゲストを招き入れてお金を使ってもらう仕組みができていなければ地域活性化にはつながらず、ゆくゆくは地域が立ち行かなくなり観光も消えてしまう。

 

そのお金を使ってもらう仕組みとして著者が推しているのが新価値を実現する観光体験プログラム。

新価値とは外部(=来る人)のモチベーションと地域に固有の資源を掛け合わせて、その土地が生みうる新しい付加価値のこと。

ネットにより生活者が自ら大量の情報を入手・発信できるようになった今、マスのマーケットはほとんど存在していないに等しく、小さなコミュニティーにターゲットを定め深く刺さる体験プログラムを提供しなければ、気づいても振りむいてももらえない。

情報の洪水の中、情報だけを届けようとするのはコスト効率的でなく、狭いコミュニティから実際に参加を得て、口コミで届くべき人に自然に届くようにする方がよい。

 

そんなこんなTipsやヒントが次々紹介されている本でした。

実際に携わっていらっしゃる事例の紹介もさることながら、本書で特に刮目なのが前半の観光をめぐる生活者の選好についての考察。レジャースポーツの衰退の度合いや、露出目的の観光PRがいかに届かないか、についての説明・分析が個人的には一番の気付きのポイントでした。

 

旅の目的地が元気に存続しなければ旅行産業自体も持続できないので、地域が稼ぐ観光を後押しすることは旅行会社にとっても中心的な課題です。

本書を読んで、少しずつでもこうした観光体験プログラムの共創に乗り出していかなければいけないと改めて感じました。

 

地域が稼ぐ観光 (Business Books)

地域が稼ぐ観光 (Business Books)

 

 

経験経済(著:B・J・パインII、J・H・ギルモア)を読みました

提供するサービスの中身(WHAT)にしても、提供の方法(HOW)にしても、顧客の体験が全てといっても過言ではないな、と思いを新たにしていたところ、ジャスト・タイミングで友人から紹介され読んだ本。 

 

なんとオリジナルは20年も前の著作ということで、全く自分の不明を恥じるばかり。

 

著者指摘の通りまさに経験が経済価値の中心になってきているのだけれど、本書によると経験経済の次には変革こそが価値を持つようになると。

確かに運動する気持ちよさ・爽快感という経験に対して、「結果にコミットする」型のRIZAPが躍進しているのはユーザーの変革に伴走するからなのでしょう。

旅行についても最大瞬間風速的な体験の提供から、顧客の変革に付き添うプログラム的なものに価値が移っていくのではないかと考えさせられました。

 

本書の賞味期限はもうちょっと残っていそうです。

読むなら今ならまだ間に合うと思います。

[新訳]経験経済

[新訳]経験経済

 

 

ユートロニカのこちら側(著:小川哲)を読みました

AIとプライバシーについてのEテレの深夜番組をたまたま観ていて、システムの力を見通しつつも人間性を諦めないような発言をされる著者を拝見し、「面白そうだな」と触手が伸びて手に取った本書。

著者が大学院在学中に上梓し、第3回ハヤカワSFコンテスで大賞を受賞した作品です。

 

あらすじは、視覚・聴覚を含むバイオデータと引き換えに働かずとも自分の「好みに沿って」暮らしていけるという『アガスティア・リゾート』に関係する人々を描いた6編のオムニバス小説。

人工知能「エージェント」によるフィルタリングは、果たしてヘルプなのか監視なのか?

自分の一挙手一投足、はては思考についてさえ、社会秩序維持にとっての好ましさという軸で評価され「情報ランク」が上下するさまはディストピアに違いないと思うのですが、ちょっと気付かずにいると社会の中にそういう領域が徐々に広がっていきそうで背筋がゾッとします。

 

ささやかですが、自由を守るために考え続ける・考え抜く姿勢はなくしちゃいけないと思いました。

 

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)