「中東政治学」(著: 酒井啓子)を読みました

読了。
中東諸国の諸事例を政治学的に分析することで中東は特殊であるという『中東例外論』を乗り越え、かつアラブ動乱を予見できなかった既存の中東政治学に新しい分析視覚をもたらすことを企図した一冊。

「中東諸国の政治過程には、①統治における公的制度と非公的制度の相互連関、②宗派や部族等の伝統的社会紐帯と政治構造の相互作用、③ナショナル・アイデンティティへの疑義、④国外主体の強力な介入という4点の特徴がある。これら特徴を政治学的に分析することは、比較政治学の幅の拡大に貢献できる。」(140字)

本書は、チュニジアジャスミン革命に端を発するアラブの動乱が相次いだ2011年初頭から1年半後の2012年7月に刊行されました。
民主化」や「社会運動」といった政治学になじみの深い言葉で「中東」が語られるようになり、特殊性のなかに押し込められていた「中東」が比較政治の場に躍り出てきた。中東政治学の本をまとめるのは今しかない、という編者酒井さん他研究者の皆さんの意気込みが動乱からわずか1年半後の本書刊行につながったんだろうと思います。

構成としては、上記①~④の各テーマについて3~4ヶ国の事例分析(それぞれ十数ページ)がされています。

一例を挙げると、エジプトで非民主的体制を支えてきた非公的ネットワークがいかに形成・維持されたか、またそれがどう変わってムバラク大統領の退任につながったか(①)や、アフガニスタンにおいて部族社会・部族的紐帯が(ローヤ・ジルガなどを通して)どう政治的決定のプロセスに関わってきたか(②)、インターネットや衛星テレビなどトランスナショナルなメディアがどうトランスナショナルなネットワークを形成し、どう国民意識の再発見につながったか(③)、などなど。

それぞれ十数ページでさくっと読めますが、大学学部後期から大学院の学生向けの教科書としても書かれているだけに、内容は結構高度でした。

むー、これで特にアラブ系の中東シリーズはいったん終了かな。
まぁまぁ主だったキーワードの背景・広がりについては分かってきた気がします。
あとはイラン/ペルシャがちょっと気になるけどどうしようかなぁ…

 

中東政治学

中東政治学