「アメリカと宗教―保守化と政治化のゆくえ」(著: 堀内一史)を読みました

読了。

レーガン大統領を誕生させ政治を保守化させてきた宗教右派は、W.ブッシュ大統領時代自分たちの理念の政治的実現に失敗して失望、指導者のスキャンダルや高齢化もあって2000年代半ば衰退した。代わって政治的にリベラルな宗教左派が台頭、2006年中間選挙民主党勝利とオバマ大統領誕生につながった。」(137字)

2010年刊ということもあり、「宗教から読むアメリカ」より最近の流れまで含めた約100年間を俯瞰しています。
どっちか一冊読むのであれば、こちらの方が読みやすいですし、新しいのでおススメかな。

二冊通じて感じたのは、宗教左派というのは関心事項がはっきりしているのでかたまりとして把握されやすく存在感が大きく感じられるんだろうな、ということ。

宗教左派にも幅があるようですが、基本的には聖書の教えをそのまま実践することを大切にしていて、生まれる前の生命の尊重の観点から人工妊娠中絶に反対し、家族のあり方についても保守的で同性婚にも反対、進化論は証明されていないセオリー(仮説)の一つとするといったところが特徴のようです。
自分たちの信仰を守ることができれば政治には関与しないというのが基本的なスタンスなのですが、人口動態などの要因からまとまった多数派になってくると政治の側から興味を持たれてしまう。
一方政治のリベラル化が進みすぎる結果、社会の道徳が下がったと感じ、学校教育においても進歩主義的な見方が優勢になってくると、自分たちの信仰が脅かされていると感じ政治に関わろうとする。
でもいざ政治の側の動員に乗ってみると、州レベルでは自分たちの主張を通せても合衆国全体には行き渡らせることができない。それで政治に失望する。

これがざっとした流れのようです。

イスラムの方でもそうでしたが、宗教的な保守派は他の宗派や宗教に不寛容なところがあって、それが優勢になると社会的な緊張が高まる。アメリカでは宗教左派が伸長しつつある(あった?)ようですが、教条主義的でないだけにゆるやかにでも連帯を続けられるのかどうか。

もしかすると、宗教右派ブッシュ大統領時に、宗教左派はオバマ大統領時代に、それぞれ時の政治に失望し、それが今の大統領選挙で既存政治への拒否感として噴出し、トランプ氏がどれだけ失点を重ねてもクリントン氏と合わせて二人とも嫌われていく、という後ろ向きのチキンレースが繰り広げられているのかもしれない。

さぁ、結果はどう出る?

 

アメリカと宗教―保守化と政治化のゆくえ (中公新書)

アメリカと宗教―保守化と政治化のゆくえ (中公新書)