「見えざる手をこえて:新しい経済学のために」(著: カウシック・バスー)を読みました

読了。前世銀上級副総裁兼チーフエコノミストの手による主流派経済学への異議申し立ての書。

ゲーム理論によれば、個人も市場も規範や文化に影響される社会的存在であり、最適均衡実現のため政府介入が正当化される場合がある。利己的個人と自由市場を前提する主流派経済学が導く今の世界経済秩序が唯一最善ではない。貧困削減と過大な不平等是正に向け経済分析の枠組みを変えなければならない。」(140字)

「いやー、よかったねー」というのが読み終わってまず感じたこと。

冷静に分析と論証を重ねて安易な提案に走らないという慎重さを保ちつつ、まずは社会で貧困に追いやられている人たちの状況を改善し、次いで過大な不平等を是正しなければならないという課題に情熱を燃やす姿勢が文章の端々に感じられて、心打たれました。
世銀のチーフエコノミストがこの本の著者バスー教授でよかった、よかった。

分析的にも、アイデンティティによる身びいきや、人種的偏見が放置されると、市場機能を通じてどう経済的格差や差別が固定化・拡大していくかという説明や、一人ひとりの選択が本人にとって最善で個別には他人にも害悪を及ぼさないにもかかわらずそれが集合的になると全体の厚生を下げてしまうという大数の議論(eg.悪条件での雇用契約の受諾)は、読み応えがあって面白かったです。

国内で貧困削減と不平等是正をするためには、税率引き下げ競争などを招かないよう、国際協調が必要という指摘がされていました。

最近読む本はグローバルガバナンスをイシューとして指摘するものが増えてきたような印象があります。
Gゼロの世界を迎え、世界秩序をどう再構築していくかが知的なフィールドで本格的に検討課題として上がってきているのではないか。
そんな兆候を垣間見た気がします。

 

見えざる手をこえて:新しい経済学のために (叢書“制度を考える

見えざる手をこえて:新しい経済学のために (叢書“制度を考える")