「スポーツのちから:地域をかえるソーシャルイノベーションの実践」(著: 松橋崇史,金子郁容,村林裕)を読みました

読了。

「共有施設利用に関するルール浸透や利害調整など、地域スポーツ振興のためにコミュニティが果たす役割は大きい。一方スポーツが地域のつながりを強化し地域活性化に資するケースもある。スポーツと地域が互いを活かしあうためには、支援コミュニティの充実が必要である。」(125字)

地域コミュニティがスポーツを支え、スポーツが地域コミュニティを活性化する事例集としては面白かったです。松本山雅のことは他の本で読んだことありましたが、なでしこリーグ岡山湯郷ベルガイナーレ鳥取の成りたちは初めて知った!
それまでのスポーツ業界の常識からするとJリーグがいかに画期的だったか、というのはよく分かりました。

ただ、タイトルはやや盛り気味かもしれません。
いや、勝手に期待しすぎただけか?

強い支援コミュニティがあればスポーツ振興や(プロ)チームを作るのに役立てうるのはよく分かります。
一方で、なぜスポーツがコミュニティのコミットを引き出せるのか、スポーツの何(どんな魅力?)がそうさせるのかや、スポーツに関わることでコミュニティが強化されていく仕組みについての分析はほとんどなされていませんでした。
チャリティ×マラソンに一時期浸かっていた者として、まさにそこが知りたくて本書をひも解いたのですが・・・
その分析がなければ、たとえば「スポーツ」を「まつり」に変えたとしても同じような議論ができるでしょう。

また、本書では、支援コミュニティ=ソーシャルキャピタルとして言及していますが、せっかくソーシャルキャピタルの概念を導入するなら、それがどう「キャピタル」なのかについてももっと突っ込んで分析があっても良かったと思います。
つまり、スポーツの側が支援コミュニティを使うと、どんな効能が・なぜ現れるのか(これについては本書でも言及があります)、それが今度は支援コミュニティの蓄積・厚みをどう増す(減じる)のか・それはなぜか、という分析です。
キャピタル=資本ですから、生産的に使えば蓄積がすすみ、非生産的に使えば減耗します。(ソーシャルキャピタルの先行研究の中に適用可能なモデルや整理された議論もきっとあると思うんですがねぇ。)
スポーツだって、コミュニティをいい形に巻き込めばコミュニティを強化するでしょうし、悪い形でまきこめば破壊することだってあるはずです。
うまくいくケースといかないケースを分けるものは何なのか、本書はうまくいったケースだけを紹介しているので分かりませんが、そこにこそ本書を手に取った人の知りたいことがあるんじゃないでしょうか。

とは言っても、本書は博士論文を大学出版会が著書にして出版した本なので、そこまで求めるのはやはり読む側の期待過剰ですね。

今後の著作に期待することにしましょう。

 

スポーツのちから:地域をかえるソーシャルイノベーションの実践

スポーツのちから:地域をかえるソーシャルイノベーションの実践