「接続性」の地政学(著:パラグ・カンナ)を読みました

本書での著者パラグ・カンナの主だった主張を要約するとこんな感じになります。


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21世紀、これからの世界中の人々の繁栄は、サプライチェーンにかかっている。
メガシティを含む都市が基本的な経済の単位になり、外部への開放性・他の都市との接続性が地政学的な重要性を増していく。

そこでは国境はサプライチェーンの流れを阻害する要因になりかねない。
政治的な軋轢があるようなら、主権国家はどんどん小さく分割していけばいい。
政治的に落ち着けば、経済活動がスムーズになり、小さすぎる国家は国を開放して接続性を高めようとするだろう。
(EUに加盟した東欧諸国や、東ティモールのように)
政治的な国境を無理に守り続けることは高価につく。
紛争を解決し、しばしばその原因となる貧困を緩和し、そのままでは周縁化されかねない人々に社会参加と雇用の機会を提供するには、経済的な接続性を高めサプライチェーンに参加できるような施策が必要である。

 

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著者は上記のことを、中国の一帯一路構想をはじめとする各国へのインフラ建設支援や、中東~ヨーロッパに至る様々なパイプライン敷設など様々な具体例を挙げつつ説明しています。

特に中国の動きは本当にたくさん取り上げられていて、中国の視点から世界をどう見ているか、何を戦略的な目標に据えているのか、を垣間見ることができます。
例えば中国が南シナ海の資源開発に固執し、ミャンマーを抜けてインド洋に至るアクセスのためにインフラを建設し、はたまた陸上でシルクロードの復活を目指すのは、ひとえに化石燃料資源の多くをボトルネックであるマラッカ海峡を通して輸入し続けることのリスクを低減したいからである、というように。

 

日本の外交、特にODAも、長らくインフラ重視で展開されてきていたのですが、一時ソフト重視の風潮に流され、折からの予算縮減と合わさって、右肩上がりに対外投資・対外支援を増やしていった中国に全く追いつけなくなってしまいました。

国レベルであれ自治体や都市レベルであれ、経済的な活力を維持しそこに暮らす人々の雇用・生活を守るため、限られた資源を有効に投資するにはそれが「接続性」の向上に寄与するかどうかがひとつの判断基準になるのではないかと思います。

 

もはやグローバリゼーションの流れが逆行することは考えられなくなった今、何を戦略的な目標に据えればいいのかの指針を示している一冊でした。

 

「接続性」の地政学 上: グローバリズムの先にある世界

「接続性」の地政学 上: グローバリズムの先にある世界

 

 

「接続性」の地政学 下: グローバリズムの先にある世界

「接続性」の地政学 下: グローバリズムの先にある世界