ヒルビリー・エレジー(著:J.D.ヴァンス)を読みました

自身その出身である著者が、自らの半生を振り返ることを通してつづった、アメリカ東部アパラチア山脈沿い一帯に暮らす白人労働者階級の暮らしぶり・価値観・文化的背景の自伝的ルポ。

 

祖母・祖父や姉・叔母など親類に守られ自身は最終的にイエール大学法科大学院を卒業し法曹界で安定した職を得た著者は、大規模製造業の生産拠点が立地することにある意味「乗っかって」中流の生活を手に入れられた時代が過ぎてしまったにも関わらず、自分たちの職業選択(の好み)を変えようとせず、また必要な努力もせず、結果的に繁栄から取り残されてしまった白人労働者階級の悲哀に寄り添いつつも、変わるべきところはあると冷静に指摘している。

 

しかし、本書に描かれたような、失業―薬物・アルコール等への依存症―家庭の崩壊ー貧困という、絵に描いたような貧困の連鎖が繰り返され、著者自身も分析しているような「学習性無力感」が階層的に蔓延しているとしたら(実際しているようだが)本当に悲劇的である。
自身の経験も踏まえて、安定した保護者の存在や、社会関係資本の有無が、子どもの将来を大きく左右していると指摘しているが、いずれも社会階層を固定化し、格差を拡大する方向に作用している。

だから、ヒルビリーにとって、よくよく主張を聞けばとてもまっとうなリベラルであるはずのオバマ前大統領は、もはや自分たちに味方しない、むしろ自分たちの転落を正当化する「実力主義」の世界の成功者で、いちいちもっともなことを言われて逆に腹が立つ存在になってしまう。
それに対して長期的に見れば自分たちの利益を損ないかねない、一見分かりやすい空証文を繰り出すトランプには支持を表明する。

 

なんで昨年大統領選でこんな結果になったのかー100の論説を読むより本書を読んだ方がよっぽど腹落ちして得心がいきました。

自身もその出身であるところのヒルビリーの人たちとその直面する現実に対して捧らえれた、まさに哀歌=エレジーでした。

 

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち