分裂と統合の日本政治(著:砂原庸介)を読みました

著者の2009年から2015年発表の論文を下敷きにまとめられた本書。

 日本で二大政党制が定着しない理由、わけても野党が政党としてのまとまりを欠き脆弱である理由は、政党システムの制度化が追い付ていないことに求められ、具体的には二元代表制と単記非移譲型投票という地方の統治システムは政党の統合を阻害する傾向が内包されていて、それが与党の利益誘導による集票に普遍的なプログラムで対抗しようとする野党に特に不利に働いているから、とされています。

 

与党の執政による現状を覆せるくらい十分包括的かつ説得的な『世界観』を持った野党がなぜ出てこないのか、そんなに構想力が貧弱なのかと不思議に思っていたのですが、それを個々の党のガバナンスのレベルではなく、政党の統合に作用する制度的システムのレベルの問題として分析・指摘しているところがオリジナルで秀逸だと思いました。

 

個人的には、ここ数年の選挙(国内・海外含め)の結果およびその後の経過を見ていて、政治的意見集約の手段として選挙という仕組みがもう限界なのではないか、幅広い論点についての多様な価値観を政党が回収しきることは難しいのではないか、いっそ選挙以外での政治への関与の方途をひらいたり分人民主主義に走ってしまった方が有権者が民主主義が機能しているという実感(あるいはうまくいけば納得感)を得られるんじゃないか、と思っていたのですが、まずはきちんと然るべきように機能するように制度を整えましょうよという地に足ついたまっとうな提案がされていて、「そうね、まずはそっちからかもね」と思わされました。

※でもそれだって、政党と選挙にもとづく仕組みの中での『自浄作用』があまりに遅々として進まなければ、全く違う形の破壊的イノベーション(もしくは低投票や脱出という形での単なる破壊)にしてやられることだってあるかもしれない、とは引き続き思います。そんなこと言ったって自分も有権者として当事者なんで、こんな他人事目線でいてはイカンわけですが・・・。

 

国政と地方政治が望ましくない形で接続するのは地方分権の制度設計の問題もあるのでは、など読み進める中で感じるいくつかのそもそも論については、最終第8章の本書の射程と今後の課題で触れられており、もしかしたら初めに第8章を読んでおくと、それ以前各章を読むときその分析・内容の咀嚼に集中できるかもしれません。

 

それにしても7年にもまたがる論文を一貫性のあるストーリーにまとめ上げ、意味あるインプリケーションを導出するのには相当な集中とメタ思考が必要であったろうと推測されます。
個々の章でも仮説の提示と実証分析による裏付けがされているが、スッとした見かけの裏では、仮説の取捨選択、データセットの整備、分析結果の解釈とそれを踏まえた仮説の再設定という行きつ・戻りつが相当あったはず。(議員のキャリアパス・地方志向を検証した分析や、地方議会選挙における政党ラベルの使われ方を検証するため選挙公報での公認・推薦状況、表明された政策志向を拾って行った実証分析など、とても地道。。。)

誠に労作で頭が下がります。

第17回大佛次郎論壇賞受賞、おめでとうございます。

 

分裂と統合の日本政治 - 統治機構改革と政党システムの変容

分裂と統合の日本政治 - 統治機構改革と政党システムの変容