黙殺 報じられない”無頼系独立候補”たちの戦い(著:畠山理仁)を読みました

一般的には”泡沫候補”と呼ばれるような立候補者たちの選挙戦の様子を記録したルポルタージュ

普段有力候補以外の「その他」として、政策的な主張やその背景にある問題意識を詳しく伝えられることのない候補者にも、ひとりひとり立候補せずにいられない理由があるーー本書を読むと、言われてみれば当たり前だけれども気を付けていないと素通りしてしまうそんな事実を窺い知ることができます。 

こうした事情も踏まえて、筆者は”泡沫候補”などいない、いるのは”候補者”だけだと指摘し、大手マスコミ等による報道の援護射撃をもらえず、独力で何とかして自分の主張を聞いてもらおうと奔走する候補者を敬意をこめて”無頼系独立候補”と名付けています。

主要候補と”無頼系独立候補”でマスコミでの取り上げられ方がどのくらい違っているか2016年7月の東京都知事選を例にとってみると、民放4局の看板ニュース番組において、全21人の候補者のうち、小池百合子増田寛也鳥越俊太郎のいわゆる有力3候補について報じた時間が全体の97%を占めていて、残りの18候補は全員合わせてもたった3%に過ぎなかったそうです。

 

”無頼系独立候補”の一例として、あちこちの選挙で名前を目にするマック赤坂氏にも一章が割かれていますが、氏がなぜあのような奇抜な選挙戦を行っているのか(行わなければならないのか)、この数字を見ると得心がいきました。

 

”無頼系独立候補”の中にも至極まっとうな主張をしている方もいて(他有力候補が首長に当選したのち同じ内容の政策を実行しているケースもあるそう)、そうした候補者のことが有権者にきちんと伝えられない状況は、投票結果の妥当性をも揺るがしかねない問題を孕んでいると思います。

 

最終的には公職選挙法まで行きつくのかもしれませんが、それ以前にも選挙事務の進め方等で、立候補者全員の主張をより公平に有権者に伝えられるようになるのではないか?という気がしました。

著者自身がニコニコ動画と組んで実現しようとした全候補者による政策討論会も、確かに一つの手段です。

あとは候補者の意匠に全く委ねられている選挙公報政見放送について、最低限含めななければならない項目を定めて候補者を比較しやすくすることなんかもあり得るのではないでしょうか。
あるいは立法措置が必要で公式な公報・政見放送がすぐに変更できないようであれば、NPO団体などでそういった情報整備と公開を担い、公式な広報・政見放送を補完することもできそうです。
個人的には市区町村議会選挙で配られる選挙公報で、「〇〇小出身」や「□□野球チームOB・元コーチ」みたいな肩書きを見ると、こんなフックで投票されたらたまらないとゲンナリしてしまうので、有権者にきちんと考えるべきことを考え、判断すべきことを判断させる情報提供のあり方を実現させることにはとても興味があります。

 

筆者も本書で主張していますが、周囲の人から後ろ指をさされたり、あまりに得票が少なければ供託金を没収されたり、ものすごい時間を取られたりするなど、さまざまなリスクを背負って選挙に打って出る候補者たちは、ただ何となく空気に流されて投票したり、そもそも棄権したりしている一般の有権者よりよっぽど真剣に政治的権利を行使していると言えます。決して泡沫と呼んで軽んじられるべき存在ではありません。

 

上記の情報の整え方もそうですが、選挙を、有権者が十分な材料を手にしたうえで判断し声を届けられる仕組みにするため、何かできるはないかなぁと考えてみたいと思います。

 

黙殺 報じられない“無頼系独立候補

黙殺 報じられない“無頼系独立候補"たちの戦い