ボランタリー経済の誕生ー自発する経済とコミュニティ(著:金子郁容、松岡正剛、下河辺淳)を読みました

ボランタリー・エコノミー研究会の3年間の研究活動を総括する意味で、20年前の1998年に出版された本。

windows98がやっとリリースされ、ブラウザはネットスケープがまだインターネットエクスプローラーより優位だったという時代に書かれたことを考えると、とてもいいところに目を付けた研究会だったのだなぁ、と思います。

 

バブル崩壊失われた10年を歩みつつあった日本国内の状況もあってでしょうか。

上意下達的なヒエラルキカルな組織や、むき出しの資本主義の行き詰まりを指摘し、水平的・相互編集的な関わり方のコミュニティによる自発的な経済循環に次なる道を見出そうという提言がなされています。

しかもそういった自発するコミュニティは、講や結、野沢温泉の野沢組の例のように、伝統的な日本の社会機構の中にすでに見出すことができる存在であって、何も新しいものではない、とも。

 

具体例として取り上げられていたケアセンター成瀬やライフケアシステムは、当時から利用者をお客様にせず、ともに支える支え手として参画させることで、柔軟かつヒューマンタッチな医療サービスをより低コスト・高効果で提供する取り組みがなされていたことを知れて興味深かったです。

同じく本書で紹介されていた「コミュニティ・メーカー」というインターネットサービスは、地域の掲示板機能を提供するもので、書き込み内容やテーマ設定について「拍手」「ブーイング」「納得」「はてな?」などのリアクションを示せる機能を備えていました。さながらFBの「いいね!」のようです。

 

惜しむらくは、20年も前にこれだけいい考察がなされながら、実社会のメジャーチェンジにはつながらなかったこと。医療・福祉の分野など、今多くの人が「こうなっていればいいなぁ」というアイデアや事例にたくさん行きついているのに、それが社会の主流には全然なっていないのがとってももったいない・・・

大学の研究・提言と社会での実践がもっとクローズに両輪としてまわっていくといいのになぁと感じてしまいました。

 

しかし目の付け所やカバーしているトピックなどは、まだ現在でも古びていないので一種の古典的に読むといい本かもしれません。

 

ボランタリー経済の誕生―自発する経済とコミュニティ