TRUST 世界最先端の企業はいかに<信頼>を攻略したか(著:レイチェル・ボッツマン)

前著「シェア」でシェアリング・エコノミーを提唱した著者の次著。シェアリング・エコノミーを可能にした「信頼」をめぐる革命がいかに起こっているのかを考察した一冊です。

 

「信頼」には、毎日顔を合わせるようなコミュニティ内に閉じた「ローカルな信頼」、国家や企業などにより垂直的に提供される「制度への信頼」、そして個人間で水平的に流通する「分散された信頼」という3つの形態がある。

 

現在企業の相次ぐ不正や政治家・役人の腐敗・スキャンダル、聖職者による虐待など、制度への信頼は低下の一方であるのに対して(特に今はインターネットのおかげで透明性が高まりすぐに露見し拡散される)、その信頼の空隙を埋めているのがレビューとレーティングに裏打ちされる分散された信頼である。

 

分散された信頼の世界は、ある意味透明性が過剰とも言える世界かもしれない。

サービス提供者または利用者としての評価、デジタルな行動履歴、取引実績のデータがそれと分かる形またはそうでない形で収集され、他人に開示される。

それが善意のもとに集められ使用されれば有益な結果を導き(あやふやな所有権に苦しめられていた貧困層に確たる財産的基礎をもたらし、公式な履歴がないため信用情報がなく金融サービスから疎外されていたこれまた貧困層マイクロクレジットへのアクセスを開くなど)、悪意にさらされれば息苦しいまでの管理社会や独占的地位を乱用するプラットフォーマーを生む。
中国で導入が進められている社会信用制度をなんて恐ろしいと思っていたけれど、 フェイスブックやグーグルによるフィルタリングの”操作”の度合い(ニュースフィードのアルゴリズム設定やボットによるレコメンデーション機能など)は、人の行動を特定の価値観のもと方向付けるという点で、社会信用制度と紙一重の差しかないとも言える。あのディストピアは、他の国に住む私たちにとってもそう遠い話ではない。

ブロックチェーンも特定の有力者の改竄・濫用を防ぐという意味では分散された信頼の最も有望な活用法かもしれないが、一切書き換えができないという特徴は一時の気の迷いから来る人生の汚点を残してしまったが最後一生背負い続けなければならないという重圧をもたらす。

 

分散された信頼をベースにした世界しか持たない一本足な生き方は、苦しい。

きっと全てがデータ化されアーカイブされるデジタル世界からの避難所となるような、フィジカルな空間・時間を求める人たちがこれから増えるのではないだろうか。

 

TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか

TRUST 世界最先端の企業はいかに〈信頼〉を攻略したか