美容整形というコミュニケーションー社会規範と自己満足を越えて(著:谷本菜穂)を読みました

なぜ人は美容整形を受けるのか?

一般的には社会規範(美しくあるべき、という社会〔特に異性〕からの圧力)によるという見方と、当該個人が身体改変を通してアイデンティティを再構築しようとしているという見方がなされてきました。

しかし著者自身の先行研究からは、美容整形の実践者は動機として「自己満足」を挙げることが明らかになっています。

その場合の「自己」とはどんな人たちかをさらに調査したところ、属性としては女性で、一定の経済力があること、身体意識としては他者の評価を気にし、老化を感じ、社会のルールに縛られる必要はないと考えている人たちであるということが分かりました。
また評価を気にかける対象である「他者」についての分析を進めたところ、広く社会一般であったり、男性であるわけではなく、母親、娘、同性の友人など、女性のネットワークからの影響が大きいことも分かりました。

ここから著者は、美容整形とは、一般化された社会でも、個別的な個人でもなく、近しいネットワーク上でのコミュニケーションに契機が埋め込まれており、影響するアクター間の関係性をも考察の対象とする必要があると結論付けています。

 

本書の一番の力点は実践者のきっかけの分析にあるのだと思いますが、個人的に一番興味深かったのは、日本での社会規範を明らかにするために女性誌テキストマイニングによって分析している第一章の部分でした。
著者の考察によれば、1980年代以降女性誌の美容関連記事では成分をアピールする科学性が目立つようになりますが、同時にその効能としては「(肌なり本人なりの)本来」への回帰という「自然さ」を打ち出すものだったといいます。
そこには、誰にでも当然に訪れ免れるものではない「老い」を本来の姿からの逸脱とし、治療可能な病として位置付けるからこそ、各種美容製品・サービスの利用が正当化されるという背景構造があるのだそうです。

いかにして美容への「投資」を消費者に納得させていったかというこの構造の解き明かしが、読んでいて実に面白かったです。

しかし、作り手の人たちは、自分たちの仕事をこういう形でメタに分析されるとどんな気持ちなんだろう?というのもちょっと気になるところではあります・・・。

 

近いようで遠い・遠いようで近い美容整形という実践が、社会規範やマスコミの影響も受けつつ、身近な女性同士のコミュニケーション がトリガーになってなされているという様子は、「あぁそうだったのね」と思わされる結論でした。
なかなか直接聞く機会がない実相を垣間見せてくれるユニークな一冊でした。

 

美容整形というコミュニケーション――社会規範と自己満足を超えて

美容整形というコミュニケーション――社会規範と自己満足を超えて