デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義(著:福田直子)を読みました。

最新のデータサイエンスとSNSが合わさって、世論形成や人々の投票行動にどのように影響を与える可能性があるかを紹介した本です。
著者ご自身がドイツ在住でいらっしゃるということもあって、ネット選挙最先端のアメリカに加え、ドイツやヨーロッパの事例も取り上げられているのが興味深かったです。
(なぜAfDが躍進しているのか、カタルーニャの独立を問う国民投票やイギリスのEU脱退を問う国民投票の例など)

 

中でも一番読みごたえがあったのは、ケンブリッジアナリティカ社を初めとするデータに基づく心理分析を踏まえて広報PRに当たるトランプ大統領選挙対策チームの動きの紹介と、ロシアによるとされるボット等を利用した欧米諸国でのディスインフォメーション活動を通じた民主政治の攪乱の話しでした。

 

トランプ陣営は浮動層をターゲットに、相手によってはトランプ支持に引き込むため、また敵対相手の支持者に対しては投票に行く気を削ぐため、個別化された広告やニュースフィードを読ませたりしていたのだそうです。

またロシアも同大統領選で、反ヒラリー的な偽情報をボットを使って大量にばらまき、そのような雰囲気を作り出していたと言います。ブレグジット国民投票やドイツの2017年の連邦議会選挙でも同じような介入(ドイツの場合、難民によってロシア系ドイツ人の少女がレイプされたというニュースが捏造であった可能性があるとのこと)があったと見られているそうです。

正直各国で劣勢に立たされた政治勢力がロシアを悪者にして人々の目を外に向けさせようとしているのではとちょっと思っていたのですが、本書を読んで実際介入が繰り返されているようだということが分かってきました。

本書でもサイバー戦争では発電所を狙うか?という節があったのですが、今やもっと根深いところで社会を機能不全に陥れようとする策動が常に繰り広げられていて、まさに常在戦場という新常態にあるのが実情なのだなと感じます。

 

プラットフォーマーが集めた個人情報により私たちが細分化され、個別化された情報(そしてフェイクニュースなどのディスインフォメーションも)が届けられるとしたら、もはや投票によってどんな社会的意思が示されたことになるのか全く判読不能なのではないでしょうか。個々人の間で接している情報や支持するに至った理由が重なりを失って行く先には、民主政治の機能不全が待っているとしか思えません。
こういう環境下で「政党」というまとまりは何を意味していくことになるのでしょう…

EUが個人情報やプラットフォーマーへの規制を強めているのはアメリカへの対抗心から来ている部分が大きいのではとうがった見方をしていましたが、自分たちの社会を分裂と機能不全から守らなければならないというかなり深刻な問題意識もあったのだなと思い直しました。

 

それにしても、ちょっと前まで土地が果たしていたような資産的な働きを、今は個人情報が果たしているのだとつくづく思います。
保有している個人情報については「登記」し、移転や譲渡する際にはきちんとトラックできるようにし、資産課税を課すことが、個人を守り、新たに生まれる格差を埋める財源を生む策なのではないかと思うのですがどうなんでしょう??