選挙制を疑う(著:ダーヴィッド・ヴァン・レイブルック)を読みました

今の時代はこれまでになく民主主義への支持は高まっているのにも関わらず、 民主主義への信頼(政府、政治家、メディアなどへの信頼)は低下しているーこの逆説的状況を”民主主義疲れ症候群”とし、その原因は選挙型代議制民主主義に求められる。選挙型に代わって抽選型の代議制を導入するべきだ、というのが著者の主張です。

 

民主主義の現状に対する総括ー正統性の危機(=投票率の低下や浮動票の増加、政党加入者の減少といった支持率の低下)および効率性の危機(=法案通過に要する時間の増加、連立交渉の長期化、政権与党への逆風といった議会の活力の低下)や、その原因への診断ー既存政治家に責任があるとする診断(ポピュリストによってなされる)、非効率的な民主主義に責任があるとする診断(テクノクラシーによってなされる)、代議制民主主義に責任があるとする診断(直接民主主義によってなされる)は、どれも簡潔かつ歯切れよくまとまっており、民主主義を俯瞰した見取り図を得るのにとても参考になります。

 

また著者は、アメリカの憲法策定過程やフランス革命を振り返りながら、選挙制は決して民主主義実現のために導入されたとは言い難く、新興貴族層が権力を握るために導入されたものであることを解き明かしていきます。
選挙制は統治者と被統治者、政治家と有権者という寡頭政的区別を残すものであって、真に民主的な手続きはこうした区別をなくす抽選制であるとします。抽選制はギリシャ時代に遡る伝統をもつにも関わらず、18世紀のアメリカ革命・フランス革命時に脇に押しやられてしまいました。その後19~20世紀は選挙への参加権の拡大が民主化とされてきたため、上記の通りの寡頭政的性質が温存されたままとなってしまっているというのです。

 

抽選制復活の萌芽として、本書では熟議民主主義の取り組みや、アイスランドアイルランド憲法討議会の例が取り上げられていました。またこれを一歩推し進め、抽選型の民主制を導入する青写真も提示しています。(選挙型と併用するなど)

 

民主主義を再びワークさせるにはどうしたらよいか?という本をいくつか読んできましたが、政党を機能させる(『民主主義の条件』、『民主主義にとって政党とは何か』)、行政への市民参加を拡大する(『来るべき民主主義』)、議場に民意を立ち表わさせる(『一般意志2.0』)、とは別軸の提案がなされている一冊でした。

統治者・被統治者の固定化・分断を打破するという意味で、確かに抽選制は一理あるとは思いましたが、裁判員制度でこれだけ辞退者が続出する状況に鑑みると、言うは易く行うは難しなのかなぁという印象もあります。高負担・高福祉化すると、より社会活動に参加しやすくなり、かつ制度へのオーナーシップも高まって、抽選制が導入されても参加しようという機運が高まる可能性もあるんでしょうか。自力救済に血道をあげなくとも大丈夫という安心感が先に必要なのかなぁと思いました。

 

選挙制を疑う(サピエンティア) (サピエンティア 58)

選挙制を疑う(サピエンティア) (サピエンティア 58)