波乱だらけだった2020年も間もなく終わり。
1年の振り返りということで、今年読んだ本のまとめをしてみたいと思います。
まずは今年読んだ本の中からのおススメ3選を!
1.絶望を希望に変える経済学(著:アビジット・V・バナジー、エステル・デュフロ)
2020年のベスト1冊は間違いなくこの本。今日重要とされている問題―移民、自由貿易、環境破壊、経済成長、不平等などーについて、最新の経済学の知見からその影響をどう分析できて、解決の方向性を示せるかを論じています。最近の政治や政策の状況に照らして、このままでは経済学は誰からも信用されなくなってしまうのではないかという危機感を抱いた経済学者である著者2人が問題に向き合う姿勢はとても誠実です。またもともと開発経済や貧困削減が専門分野ということもあって、社会で弱い立場に立たされた人たちに心を寄せ、解決へのアプローチの仕方を論じる姿勢も素晴らしいと思いました。(本書の第9章のタイトルは「救済と尊厳のはざまで」です)
昨年のFACTFULLNESSに匹敵する良書なのでぜひご一読を!
2. タイタン(著:野崎まど)
次いでは文芸分野からのおススメ。AI・ロボットが発達し人間はもはや働かなくてもよくなった未来において、人間がAIのカウンセラーとして「労働」することになって・・・という設定の小説。ネタバレになるので詳細は控えますが、いろんな読み方できるストーリーでぐいぐい読み進められます。設定や登場する未来の技術も面白かったです。
3.手の倫理(著:伊藤亜紗)
おススメ3選の最後は伊藤亜紗さんの手の倫理。「ふれる」と「さわる」-何気なく使い分けられている触覚にまつわる2つの言葉の違いから、触覚=手の倫理を立ち上げていく一冊です。意外な切り口から人と人の関わり方の核心に迫っていくアプローチは著者ならではの独特のセンスだなぁと思います。道徳と倫理の違いや視覚障害ランナーへの伴走体験など、途中過程で取り上げられる考察・素材も興味深く、いろんな気付きがもらえる本でした。
続いて以下は上記3冊を含む今年読んだ本全体を概観してみての「こんなこと考えた1年だったんだなぁ」という振り返りをしてみたいと思います。
多分つらつら長くなるので、なにはともあれ面白そうな本見つけたい!という方は、2020年に読んだ本一覧がoffvolaの本棚 (offvola) - ブクログ から見られますので、気になるタイトルをクリックして頂くと早いかと思います。
大きなテーマは「声を聞く」
今年読んだ本を大括りに分野分けしてみると、こんな感じになります。
①民主政治
- 未来をはじめる: 「人と一緒にいること」の政治学 (著:宇野 重規)
- 日本の地方議会-都市のジレンマ、消滅危機の町村 (著:辻 陽)
- 政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡 (著:待鳥聡史)
②日本のメディア
- 日本・1945年の視点 (著:三輪 公忠)
- 「撃ちてし止まむ」―太平洋戦争と広告の技術者たち (著:難波 功士)
- PANA通信社と戦後日本 (著:岩間 優希)
③コミュニティ・コミュニケーション
- コミュニティを問いなおす (著:広井 良典)
- アナザーユートピア「オープンスペース」から都市を考える (著:槇文彦)
- 遅いインターネット (著:宇野 常寛)
- 未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために― (著:ドミニク・チェン)
- 謎床: 思考が発酵する編集術 (著:松岡正剛)
- 人は語り続けるとき,考えていない: 対話と思考の哲学 (著:河野哲也)
④市場主義再考
- ほどよい量をつくる (著:甲斐かおり)
- 鎌倉資本主義 (著:柳澤 大輔)
- 僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた (著:アダム・オルター)
- 絶望を希望に変える経済学 (著:アビジット・V・バナジー)
⑤貧困・社会保障
- 大人のための社会科 (著:井手 英策)
- 日本の税金 第3版 (著:三木 義一)
- 社会保障再考 〈地域〉で支える (著:菊池馨実)
- 絶望しないための貧困学 (著:大西連)
- 生活保護リアル (著:みわよしこ)
⑥弱さ
- ほんのちょっと当事者 (著:青山ゆみこ)
- 悪について誰もが知るべき10の事実 (著:ジュリア・ショウ)
- もうダメかも――死ぬ確率の統計学 (著:マイケル・ブラストランド)
⑦地誌・地域
- 風土―人間学的考察 (著:和辻 哲郎)
- 歩いて読みとく地域デザイン (著:山納 洋)
- 渋谷の秘密_12の視点で読み解く (著:隈 研吾)
- セゾン 堤清二が見た未来 (著:鈴木 哲也)
- ポスト消費社会のゆくえ (著:辻井喬)
- 実践から学ぶ地方創生と地域金融 (著:山口 省蔵)
⑧生き物の視点
- 生物に世界はどう見えるかー感覚と意識の階層進化 (著:実重重実)
- 虫とゴリラ (著:養老 孟司)
⑨アート
- 人類を前に進めたい チームラボと境界のない世界 (著:猪子寿之)
- 学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・ シンキング・ ストラテジーズ (著:フィリップ・ヤノウィン)
- 教えない授業――美術館発、「正解のない問い」に挑む力の育て方 (著:鈴木有紀)
政治や民主主義に関する本は去年から読み続けています。拾い上げられるべき声が見落とされているんじゃないか、先を見越した議論をして結論を出さなければいけないことが先送りされ火を吹いた時に「なんとなく」決められることになりそうな予感がする、低投票率・低関心などから、政治が不活発でシステムとしてワークしていない感があるのだと思います。でも民主主義のシステムの不活性をうっちゃったままにすると、英米のように大きな分断でにっちもさっちもいかなくなるか、強いリーダー・組織による迂回解決を求めると戦前の二の舞になりそうで、どうしたらちゃんとワークするのか?は気になり続けているところです。
特に戦前において、戦争を選んでしまったプロセスでメディア・新聞社の影響は大きかったのではと感じていて、それで日本のメディアに関する本も読みました。しかもメディア・広告分野の人材は戦前・戦後の連続性も割とあって、今の社員にどう自分たちの過去を総括して伝えているのか・伝えていないのか、が気になっています。
コミュニティやコミュニケーションに関する本は、フォーマルな政治プロセスや既存メディアを補完・代替するものとしてどう作用しうるか考える意味で読んだみたいです。
市場主義再考の本も、似たような関心、ナイーブな資本主義へのオルタナティブを考えたくて読みました。
貧困・社会保障分野は拾い上げるべき声としてどんなものがあるか、実情を知りたいという動機で読んだのだと思います。これらは2020年の頭に読んだ本が多いのですが、要は受益も負担ももっとユニバーサルにすべき(個人で貯蓄するより、公金として社会全体で蓄え分ける)という示唆がありました。(こんなまとめも書いています
貧困・格差・社会保障に関する本を読みました - UchiyamaTakayuki’s blog)
期せずしてその後コロナに見舞われ、緊急時の公共からの支援が too small、too lateであることが露見したのですが、ああやっぱりそうだったか、という印象を強くしました。
地誌・地域のジャンルは、ここ最近その土地のその土地らしさ、オーセンティシティをどう見出し伝えていくか、に関心があってその関連で読んだ分野です。オフィスがある渋谷がひとつ足元と言えるのですが、その渋谷の再開発について「うーんどうなのかなぁ」というところも感じていて、そう言えばそもそも渋谷の渋谷らしさをちゃんと考えたことがないことに気付きました。それで一連の「渋谷本」を読んだのですが、意外な歴史があっていわゆる地誌の面白さに気付かされる経験になった次第です。
アート分野は、対話型鑑賞についての本を何冊か読みまして、それもこの地誌の発掘に結び付くかなぁと考えてのことでした。
生き物の視点というのは、昨年読んだ正義論の本の中で、公平性は人間以外の生物までも及ぶのか?というような議論があって、生物から見た世界の見え方はどんなものだろ、と思って読んでみたジャンルでした。
これをぜーんぶまとめてみると、2020年の読書の大きなテーマは「声を聞く」ーある時は社会で弱い立場にある人の、ある時は土地の、ある時は生き物や自然のーであったとまとめられるように思います。
プロデュース、サステナビリティ、デジタル
上記以外のもう少し普段の仕事に近いところでは、こんな本を読みました。
- 天才の思考 高畑勲と宮崎駿 (著:鈴木敏夫)
- ジブリの仲間たち (著:鈴木 敏夫)
- サステナブルツーリズム (著:藤稿 亜矢子)
- 観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード (著:村山 慶輔)
- 5G 次世代移動通信規格の可能性 (著:森川 博之)
- アフターデジタル2 UXと自由 (著:藤井 保文)
ツーリズムのサステナビリティはいやが応にも考えさせられましたし、そのための役回りや方法論として、プロデュース、デジタル分野の本を読んでみた、というところだと思います。
文芸書はたった4冊・・・
- 小林賢太郎戯曲集 STUDY ALICE TEXT (著;小林 賢太郎)
- タイタン (著;野崎まど)
- あなたが私を竹槍で突き殺す前に (著;李龍徳)
- メゾン刻の湯 (著;小野美由紀)
ああ、いくらなんでもちょっと少なすぎた気がします・・・。
来年はもう少し文芸書読む冊数増やして、生活に潤いを加えたいと思います。
さて、来年はどんな本との出会いが待っているやら。
来年もよき読書体験が待っていますように。