2022年読んだ本おススメ4選&まとめ

2022年もそろそろ終わり。
ということで、今年読んだ本の中を振り返って、選りすぐりのおススメを4冊ご紹介したいと思います。

全体総括などは後回しにして、まずはおススメからいきましょう!

 

1.『土と内臓』(著:デイビッド・モントゴメリー)

今年、世界の見え方を一番揺さぶられたのが本書だったと思います。
地質学者の夫と、生物学者の妻の共著で、土の中と人間の腸のなかで微生物がどんな働きをしていて、いかにそれらが似通っているか、そして農業や食を通じて相互に影響し合っているか、を解き明かしている本でした。

土の中と人間の腸が似通っているって、最初に聞くと「なんのこっちゃ?」と思いませんか?

でも栄養の素を分解し、生物が摂取可能な形に変えるという働きは、土の中でも人間の腸の中でも共通して行われていることです。というか、そのプロセスがないと、生き物(植物も人間も)栄養を体内に取り込むことができない。

それを媒介しているのが微生物たちなのです。

微生物が生物の量としても、種の種類としても圧倒的多数を占めていることを初めて知りました。人間の体の外側はもちろん、内側の壁にもものすごくたくさんの微生物が棲んでいて、それが周辺の環境とも連綿とつながっていく。

そもそも自分の細胞より多い微生物のネットワークに包まれているヒトの「個人」とはいったいなんなのか?を考えさせられますし、人と環境を実体としてつないでいる存在があるという事実にもビックリさせられます。

「ドローダウン」や「リジェネレーション」など、気候変動対策の書籍に環境再生型農業や食のサプライチェーンに関する章が含まれていて、正直ピンと来にくかったのですが、この本を読んで一気に解像度が上がりました。

食べることを変えることが、どんなに自分(ヒト)と地球にインパクトを及ぼせるかにも気付かせてくれる本書、もしまだ読んでなければぜひ読んでほしい一冊です。

 

2.『現代経済学の直観的方法』(著:長沼伸一郎)

数理物理が専門の著者の手による資本主義経済のとらえ方についての一冊。(とは言え小難しい数式は出てきませんのでご安心を。)

特に自分が惹かれたのは、最終章「資本主義の将来はどこへ向かうのか」で触れられている『縮退』という概念です。『縮退』とはもともと物理学の専門用語のようですが、本書では「量としては拡大していても、システムの質としては劣化している状態」を指しています。

具体的な例としては、一部の巨大企業だけが成長を独占し中小以下の企業がつぶれていく状態(でも経済総体としては量が伸びる)や、一部の生物種が他の種を圧倒している状態が挙げられています。
なぜ後者が質的劣化なのか直観的には捉えられると思いますが、そこに明快な根拠を与えてくれるのが「縮退」という概念です。

この「縮退」は、反独占や分散型を目指す根拠、多様性を尊重した方がいい理由を与えてくれる、とてもパワフルな概念です。

全章はちょっと…という方は最終章だけでもいいので、この「縮退」という概念に触れてみてもらえたらな、と思います。

 

3.『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』(著:川内有緒)

3冊目は今年の本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した、『目の見えない白鳥さんとアートを見に行く』です。

お話しはタイトルの通り、全盲の白鳥さんと美術館めぐりをするストーリーで始まります。「なるほど、目の見えない人と一緒に鑑賞すると、それぞれが見ているものを言語化するので、一種対話型鑑賞みたいになるのね」と読み進めますが、途中からそれだけではないことに気付きます。

そもそも障害とは何か?が問い直されていたり、表現すること・表現を受け止めることの繊細さまで話が広がっていきます。

映画にもなるみたいですが、ぜひ著書も読んでみてください。

 

4.『輝山』(著:澤田瞳子

最後の一冊は文芸分野から。確か日経新聞の書評で紹介されていたのがきっかけで読んでみた本です。

舞台は江戸時代の石見銀山。江戸から派遣されてきた役人、金吾の目を通して描かれる、ヤマ(鉱山)で生きる人々の群像劇です。

金吾はもともと現地の代官の身辺を探るために派遣されたのですが、石見の人々と触れ合い日々過ごす中で次第に実情が明らかになっていくというストーリー展開で、続きが気になりすぎて途中で読むのを止められませんでした。(多分3日くらいで一気読みしました)

登場する人物たちもみんな魅力的。交わされるやりとりは活き活きとしていて、世界に引き込まれます。

これぞ王道の小説という小説。すっきり気持ちよくなる読後感の物語を読みたいな、という時にぜひおススメしたい一冊です。

 

以上、2022年読んだ本からおススメの4冊でした!

その他読んだ本や、全体のまとめ・振り返りも下に続きます。もし「もっとなんかない?」と気になる方はよかったら引き続きお付き合いください。

 

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さて、2022年に読んだ本は合計104冊。久々の100冊超えでした。

読んだ本を大まかにジャンル分けすると、【土】、【森・林業】、【農業】、【持続可能性・エコロジー】、【哲学・歴史】、【反市場主義】、【ケア】、【ジェンダー】、 【社会変革】、【街・街づくり】、【東京・品川】、【島の地誌】、【ビジネス書】、【NFT】、【エッセイ】、【小説】になります。

 

大きな流れとして、今年は、「都市/経済」と「自然/ケア」をどう折り合わせるかが大きなテーマだったように思います。

〇適切に手を入れる

ことに都市と自然については、なるべく自然に還せば済むという単純な話しではなく、適切に人の手を加えることが必要なのだ、というのが新しい発見だったと思います。

このあたりは東京チェンソーズさんの本(「今日も森にいます」・「山をつくる」)や「樹木の恵みと人間の歴史」、「植物と叡智の守り人」に教えてもらいました。
世界遺産 奄美」でも、自然を破壊しつくさないよう適度に関わりながら自然資源を使ってきた島の環境文化こそ大切に残さなければいけない財産とされていて、島の価値観や生活文化を伝える新しい意義を感じたところです。

〇食というジャンルの発見

そんな自然と都市の関りで、自然保護に参加する以外のもっと日常的な方法として見えてきたのが、「食」というジャンルでした。
これが土と内臓のところで書いた微生物を通じたつながりであり、また農業のあり方次第で土(と植生)に不可逆的なダメージを与えかねない、という理解でした。
いきなり読むとちょっと眉唾に思えるかもしれませんが、新書で手軽に読みたければ「腸と森の「土」を育てる」がさっと読めます。
どこか遠くの土に深刻なダメージを与えかねないような食物ではなく、なるべく近くで土や環境を保全するような方法で育てられた食物を選ぶ―それが都市にいながらにして自然環境の保護に参加する一番日常的な方法なんじゃないかと、最近考えています。

〇ケアを権利として考える

経済―ケア軸では、つくづく性別役割分担による弊害が大きすぎるなぁと痛感しました。ケアを免除されたとも言えるし、切り離されたとも言える男性たちだけが意思決定を握り続けるから、いつまでたってもヒトが経済に subordinate してしまう。

アメリカ人の日本人研究者が書いた「縛られる日本人」は冷静にその構図を分析していました。

ケアに従事する便宜を「家庭に」(≒「女性に」なわけですが)供与すべしと企業に義務付けるのではなく、ケアし・ケアされる権利を「個人に」付与し、侵害するような働かせ方を禁じるくらい踏み込んでもいいのではないかと、個人的には考えています。

 

・・・今年はさすがに冊数が多いので、まとめだけでは特筆したい本がこぼれ落ちてしまいます。
ということでここからは、ここまで触れられなかったけど、どうしても一言残しておきたい本たちをピックアップしていきます。

・「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」(著:東畑開人)

まさに「読むセラピー」。相変わらず読ませます。ホントに東畑さんの本は好きです。

 

・「これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。」(編」SSIR Japan)

社会を変えるのに、全てを自分でやりきらなくてはいけないわけではない。力の合わせ方はいろいろあって、自分がやれる・やりやすい・力を発揮できるポジションを狙えばいい、そんなヒントになる本です。

 

・「私たちのサステナビリティ」(著:工藤尚悟)

サステナビリティってなんだっけ?というのをそもそも論に立ち返って考える手掛かりに。風土と結びついているのも個人的には大好きです。笑
(本書の下敷きのひとつに「福岡伸一、西田哲学を読む」がありますが、こちらも頭で理解するのではなく体得することの大切さを説いていて、ちょっとマニアックですが面白いですよ~)

 

あぁ、まだまだお伝えしたい本は尽きませんが、さすがに長文になってきたので、泣く泣くここまでにします!

2022年は読書会にも参加しましたが楽しかったなぁ。

「あの本読んだよ!」という対話も、そろそろ対面で直接できるようになってきそうですね。

そんな機会が増えることも楽しみにしつつ、来年を迎えたいと思います。

最後までお付き合いいただきありがとうございました~!

<以下全104冊のリストです!>

【土】
土と内臓(著:デイビッド・モントゴメリー)
菌類が世界を救う(著:マーリン・シェルドレイク)
土を育てる(著:ゲイブ・ブラウン)
土 地球最後のナゾ(著:藤井一至)
大地の五億年(著:藤井一至)
よくわかる土中環境(著:高田宏臣)
腸と森の「土」を育てる(著:桐村里紗)

【森・林業
植物と叡智の守り人(著:ロビン・ウォール・キマラー)
樹木の恵みと人間の歴史(著:ウィリラム・ブライアント・ローガン)
屋久島の山守 千年の仕事(著:高田久夫)
今日も森にいます 東京チェンソーズ(著:青木亮輔)
山をつくる(著:菅聖子)
林業男子(著:山﨑真由子)
神去なあなあ夜話(著:三浦しをん
神去なあなあ日常(著:三浦しをん
虚構の森(著:田中淳夫)

【農業】
わら一本の革命(著:福岡正信
豊かな暮らしと”小さな農業”(著:望月健)
その農地、私が買います(著:高橋久美子
そのとき、日本人は何人養える?(著:篠原信)

【持続可能性・エコロジー
リジェネレーション(著:ポール・ホーケン)
私たちのサステナビリティ(著:工藤尚悟)
ブルーエコノミーに変えよう(著:グンター・パウリ)
グッド・アンセスター(著:ローマン・クルツナリック)
1秒の世界(著:山本良一)
海のいのちを守る(著:渋谷正信
都会の里海 東京湾(著:木村尚)
世界は恋人 世界はわたし(著:ジョアンナ・メイシー)
チッソは私であった(著:緒形正人)
イントゥ・ザ・プラネット(著:ジル・ハイナース)

【哲学・歴史】
弱いニーチェ(著:小倉紀蔵
福岡伸一、西田哲学を読む(著:池田善昭)
20世紀のグローバル・ヒストリー(著:北村厚)

【反市場主義】
現代経済学の直観的方法(著:長沼伸一郎)
賃労働の系譜学(著:今野晴貴
公民館のしあさって(著:公民館のしあさって出版委員会)
なぜ、脱成長なのか(著:ヨルゴス・カリス)
無縁・公界・楽(著:網野善彦
21世紀の楕円幻想論(著:平川克美
共有地をつくる(著:平川克美
言葉が鍛えられる場所(著:平川克美
ぼくたちに、もうモノは必要ない。(著:佐々木典士)
何もしない(著:ジェニー・オデル)
不便益のススメ(著:川上浩司)
疲労社会(著:ピョンチョル・ハン)

【ケア】
目の見えない白鳥さんとアートを見にいく(著:川内有緒)
なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない(著:東畑開人)
言葉を失ったあとで(著:信田さよ子
ケアの倫理とエンパワメント(著:小川公代)
合理的配慮(著:川島聡)
まともがゆれる(著:木ノ戸昌幸)
ケアするのは誰か?(著:ジョアン・C・トロント
「わかりあえない」を超える(著:マーシャル・B・ローゼンバーグ)
ネガティブ・ケイパビリティ(著:帚木蓬生)

ジェンダー
もうひとつの声(著:キャロル・キリガン)
いのちの女たちへ(著:田中美津
おっさんの掟(著:谷口真由美)
オッサンの壁(著:佐藤千矢子)
日本の女性議員(著:三浦まり)
「家族する」男性たち(著:大野祥子)
家事は大変って気づきましたか?(著:阿古真理)
モテないけど生きてます(著:ぼくらの非モテ研究会)
縛られる日本人(著:メアリー・C・ブリントン)

【社会変革】
これからの「社会の変え方」を、探しにいこう。(著:SSIR Japan)
社会的インパクトとは何か(著:マーク・J・エプスタイン)
9割の社会問題はビジネスで解決できる(著:田口一成)
コミュニティ・オーガナイジング(著:鎌田華乃子)

【街・街づくり】
場づくりから始める地域づくり(著:飯盛義徳)
ゲストハウスがまちを変える(著:渡邊崇志)
横浜中華街(著:山下清海)

【東京・品川】
東京「スリバチ」地形散歩(著:皆川典久)
品川区史2014(著:東京都品川区)
品川区の歴史(東京ふる里文庫16)(著:品川区文化研究会)
発掘写真で訪ねる 港区・品川区古地図散歩(著:坂上正一)

【島の地誌】
ダイビングのエスノグラフィー(著:圓田浩二)
沖縄美ら海水族館はなぜ役に立たない研究をするのか?(著:佐藤圭一)
世界遺産 奄美(著:小野寺浩)
忘れられた日本人(著:宮本常一
天の蚕が夢をつむぐ(著:谷本雄治)

【ビジネス書】
アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方(著:仲山進也)
SNS×メディアPR100の法則(著:笹木郁乃)
聞く技術(著:宮本恵理子)
売上最小化、利益最大化の法則(著:木下勝寿)
日本の美意識で世界初に挑む(著:細尾真孝)

【NFT】
NFTの教科書(著:天羽健介、増田将史)
NFTビジネス見るだけノート(著:宝島社)
NFTビジネス 超入門(著:森川ミユキ)
メタバース(著:加藤直人)
東大教授が挑むAIに「善悪の判断」を教える方法(著:鄭雄一)

【エッセイ】
なぜ私たちは理系を選んだのか(著:桝太一
理系アナ桝太一の生物部な毎日(著:桝太一
つたなさの方へ(著:那須耕介
日本でわたしも考えた(著:パーラヴィ・アイヒヤール)
空洞のなかみ(著:松重豊

【小説】
輝山(著:澤田瞳子
やさしい猫(著:中島京子
マチネの終わりに(著:平野啓一郎
日食・一月物語(著:平野啓一郎
本心(著:平野啓一郎
きいろいゾウ(著:西加奈子
夜が明ける(著:西加奈子
オーラの発表会(著:綿矢りさ
はぐれんぼう(著:青山七恵
献灯使(著:多和田葉子