不平等を考える:政治理論入門(著:齋藤純一)を読みました

確か日経新聞の書評で見かけたのが、本書を読もうとしたきっかけ。
たまたま都議選直前のタイミングで手に入り、タイムリーで面白かったです。

本書は3部構成になっています。

第一部では平等な関係とは何かについて色んな基準(機会の平等、結果の平等、運の平等、関係論的平等)を引きつつ検討しています。
あえて一言で言えば、共有する制度のもとで対等な市民として尊重されることが平等な関係、とされています。

ただし、この対等な市民としての尊重は、社会的・経済的格差が大きすぎると容易に損なわれる(社会・経済的なポジションが市民としての立場に影響する)とされ、それを是正する制度として、続く第二部で社会保障と平等の関係について考察されています。
社会・経済的不平等を社会保障によって抑制しなければならないのは、人びとがそれによって生きていくために他者の意思に依存しなければならないような状態に陥るのを避けるためとされていますが、特に「生の複数性」の考え方-食うや食わずやの状態を離れ自らの「善の構想」を追求できるようにすることが社会を豊かにする、という視点はとてもポジティブな捉え方だな、と思いました。
また社会保障制度のあり方についても考察されており、事後的対処と事前の支援を対比し、社会保障制度は人びとが社会的協働に参加していく際に対等な足場に立つために必要な事前の支援の方がより望ましいとされています。
個人的に刮目だったのは、個人の多様性を認める上でも、社会的包摂を考える上でも、さらにこれからますますリターンの大きい雇用口が減っていくことを踏まえても、社会的協働を、財を生産する賃金労働に限定せず、コミュニティの維持・再生のための活動や、排除や周辺化を防ぎ人々を社会につなぎとめようとする活動、国外で貧困に対処するための活動などについても正当に評価し、これに従事する人びとが安定した生活条件を得られるようにすることもまた、社会保障の役割と指摘されていることでした。

続く第三部では、こうした制度を市民が生み、維持・再編していく仕組みとしての民主主義と平等の関係について考察されています。

本書で一番読み応えがあったのがこの第三部で、投票者という立場にせよ立候補者という立場にせよ、選挙以外の手段・機会で、普通の人が制度をつくることにどう関わっていけばいいかのヒントが示されていたように思います。

筆者によれば民主主義とは多数決で押し切るための手段ではなく、少数者も同じく尊重されるべきと指摘します。それを具体的に実現するため必要なのが、ある政策や制度を支持するまたは支持しない理由を開示し検討することで、これによって多様な観点-もしかしたら今ここにはいない・参加できない主体の観点も含めてーを決定に反映できるようになるとしています。このプロセスは「熟議」と呼ばれ、「熟議」を経て蓄積されていく「理由のプール」が、将来にわたって政治的決定を方向づける政治文化を形成するのだそうです。
この熟議の機会をひらくことこそ、必ずしも特定の政策について支持・不支持を表明できるわけではない選挙とは違ったルートで、市民に制度の編者・作者としての役割を果たさせうるものだろうと思いました。

アプローチにおいては保守的な手段をこそ取るべき(理想やビジョンにおいてはアイデアリスティックであったとしても)というのが基本的なスタンスでありながら、こらえ性がない自分にはとても政治家はムリで、じゃあどうしたもんかねぇと思っていたのですが、この熟議の「場をひらく」というのであればこれまで経験がないわけでもなく、また好きなことでもあるので、無理せずできるかもしれないなぁと思っています。

コンパクトながら自分にとっていいヒントがいっぱい詰まった一冊でした。

 

不平等を考える: 政治理論入門 (ちくま新書1241)

不平等を考える: 政治理論入門 (ちくま新書1241)