2023年に読んだ本レビュー

なぜか年末感が全然なく、準備が手につかなかった2023年。
明けてからの投稿となりましたが、2023年に読んだ本のレビューとオススメをピックアップしてみたいと思います。

都市住民としてちょうどよく暮らすには?

改めて2023年読んだ本をざっと見渡してみると、
「食」「農」「ジェンダー」「ケア」「人と経済」「人と自然」「民主政治」「武蔵野」
あたりが主なテーマでした。
 
以前から継続しているものが多い中、「武蔵野」が加わったことが2023年を象徴しているなぁと感じます。
後年振り返れば、2023年は「東京(のような都市)に住みながらも、」というスタンスを決めた年になるのではないかと思います。
仕事柄魅力的な地域や島との出会いは尽きないのですが、そこにあるものを羨むので終わるのではなく、「今ここ」であって欲しい状況を生み出すことに踏み出した、それが自分の場合は東京だった、ということです。
 
ということで、総括すると「都市住民としてちょうどよく暮らすには?」というのが2023年に考えていたことの全体感になりそうです。

以下では、そんな中で特にピックしたい本を数冊選んでみたいと思います。

2023年ピック本

前段からの流れを汲み、これから都市でどうちょうどよく暮らせるか?を考えるヒントになりそうな本として、まずは以下3冊をピックします。

 

『Slowdown』は人口増加、技術革新、気候変動、債務などが減速し安定化に向かっているということを大量のデータで論証している一冊。
主張に合うように数字を取っていないか?という疑いは要りそうですが、あらゆることが加速度的に増しているという直感に反する内容で、「もしそうだったら」と違う視点を得るのにとても示唆的な本だと思います。

 

『スマート・イナフ・シティ』は、一見中立的に見えるテクノロジーが帯びる政治性に目を向け、都市住民が自分たちの幸福につながるよう意識して選択する必要性を指摘しています。
最先端のテクノロジーに全ての解決を委ねることはできず、欲しい未来を手にするためには地道な対話・合意形成といったウェットなプロセスが大事であるという主張は心に留めたいと思いました。

その意味で『くらしのアナキズム』の、問題や課題の解決を権力を有する誰かに委ねるのではなく、生活者である自分たち自身で考え、一緒に模索できる仲間と手を携え、向き合おうという訴えも、根本のところは共通していると言えそうです。

湯澤規子さん

2023年最も多く読んだ著者は、歴史地理学の観点から食について著作を出されている湯澤規子さんで、単著を5冊読みました。
論旨の運びも文章も引き込むものでどれも面白かったのですが、初めの一冊としてあえて選ぶならこちらでしょうか。

自分自身子どもたちがそれぞれのお菓子を持ってきて食べる光景を直接目にしており、それがこういう「食」の位置づけの反映になっているのか、と改めて気付かされました。

ほかの著作も面白いので、ぜひどれからでも読んでみてください。

両極端な2冊

また、リストの中で両極端なのですが、どちらも「へぇ、そうか!」と参考になったものとして以下2冊をピックします。

ベンチャーキャピタル全史』は、その名の通りアメリカのVCがどのような変遷を経て今に至るのかを追った一冊です。
人の密接なつながりが丹念に追われていて「それは地理的に狭いエリアで盛り上がるわけだわ」と納得がいきました。
VCと出資者との関係や、それゆえにスマッシュヒットを求める背景も本書を読むとよく分かって、行動原理を理解することができます。このあたりは出資を受けようと考えるときにも参考になるんじゃないでしょうか。

 

一方『マザーツリー』の方は、森林を形成する樹々同士がどのように「コミュニケーション」しているかを、著者自身の研究史を通じて明らかにしている著作。
問い立て―仮説ー実験ー検証のプロセスが謎解きのようで、続きが気になってどんどん読めました。
動けないと言われる植物ですが、個体を超えたネットワーク全体を生命ととらえると、どれだけダイナミックに命脈をつないでいるかが伺い知れてとても興味深かったです。

海から見る歴史

続いては島関連の本も一冊ピック。

屋久島に伝わる「まつばんだ」という古謡が帯びる琉球音階の謎を追いかけて見えてきた、海洋を通じた交流史の本。
一般的な通史ではほぼ陸上を行き来した歴史がメインストリームになっていますが、黒潮の海の往来を辿ると今の自分たちが考える以上に活発な交流があったことが分かります。
これまたミステリーのようなストーリー展開が魅力的ですし、海からの歴史という視点も新しくて面白い一冊でした。

子どものために棚にさしておきたい一冊

ネイマールの通訳を務め、今ではプロサッカー選手の語学はじめとする海外生活準備のサポートをする著者の半生を振り返った本。
自分で考えて選んだ道を行けば危なっかしく見えてもどうにかなるもんだというメッセージや、プロサッカー選手も海外でプレーするためにこんなに準備・勉強しているんだという裏側が覗けたりして、いつか分からないけど子どもがふと手に取ったら何か感じるかも、という一冊だと思いました。

 

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今年はすっと順番が付けられず、ベスト〇選みたいな並べ方にはなりませんでした。
あっち行ったり・こっち行ったりのレビューとなりましたが、ピンとくる一冊があったようであれば嬉しいです。

2024年もマイペースに読み進めて、また1年経ったら振り返りたいと思います。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

※2023年読んだ全冊※

【食】    
「美味しい」とは何か    (著:源河亨)
自分のために料理を作る:自炊からはじまる「ケア」の話    (著:山口祐加)
「食べること」の進化史    (著:石川伸一)
フードテック革命    (著:田中宏隆)
地域の食をブランドにする!    (著:金丸弘美)
食べものがたりのすすめ    (著:湯澤規子)
ウンコはどこから来て、どこへ行くのか    (著:湯澤規子)
胃袋の近代    (著:湯澤規子)
7袋のポテトチップス    (著:湯澤規子)
「おふくろの味」幻想    (著:湯澤規子)
【農】    
肥料争奪戦の時代    (著:ダン・イーガン)
東京農業クリエイターズ    (著:小野淳)
渋谷の農家    (著:小倉崇)
農家はもっと減っていい    (著:久松達央)
食と農のプチ起業    (著:小野淳)
ジェンダー】    
アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?    (著:カトリーン・キラス・マルサル)
さらば、男性政治    (著:三浦まり)
戦う姫、働く少女    (著:河野真太郎)
マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か    (著:松田俊介)
【ケア】    
ケアの社会学    (著:上野千鶴子
医療の外れで    (著:木村映里)
他者と生きる    (著:磯野真穂)
ケアとは何か    (著:村上靖彦
聞く技術、聞いてもらう技術    (著:東畑開人)
シンクロと自由    (著:村瀬孝生)
【人と経済】    
次の時代を、先に生きる    (著:高坂勝)
減速して自由に生きる    (著:高坂勝)
女性と協同組合の社会学    (著:佐藤康幸)
生き方を変える女たち    (著:生活クラブ生活協同組合神奈川)
Slowdown減速する素晴らしき世界    (著:ダニー・ドーリング)
強欲資本主義は死んだ    (著:ポール・コリアー)
ルポ雇用なしで生きる    (著:工藤律子)
ルポつながりの経済を創る    (著:工藤律子)
コンヴィヴィアリティのための道具    (著:イヴァン・イリイチ
「能力」の生きづらさをほぐす    (著:勅使川原真衣)
安いニッポン    (著:中藤玲)
【人と自然】    
「自然」という幻想    (著:エマ・マリス)
エネルギーをめぐる旅    (著:古舘恒介)
生きのびるための流域思考    (著:岸由二)
人間がいなくなった後の自然    (著:カル・フリン)
川と人類の文明史    (著:ローレンス・C・スミス)
2050年の世界地図    (著:ローレンス・C・スミス)
GREEN BUSINESS    (著:吉高まり)
ゴリラからの警告    (著:山極寿一)
ヒトの原点を考える    (著:長谷川眞理子
アッテンボロー 生命・地球・未来    (著:デイヴィッド・アッテンボロー
マザーツリー    (著:スザンヌ・シマード)
【民主政治】    
自由への手紙    (著:オードリー・タン)
日本の保守とリベラル    (著:宇野重規
「くうき」が僕らを呑みこむ前に    (著:山田健太
ポピュリズムとは何か    (著:水島治郎)
ラジオと戦争    (著:大森淳郎)
スマート・イナフ・シティ    (著:ベン・グリーン)
くらしのアナキズム    (著:松村圭一郎)
【武蔵野】    
武蔵野樹林Vol.1    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.2    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.3    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.4    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.5    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.6    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.7    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.8    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.9    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.10    (著:角川文化振興財団
武蔵野樹林Vol.11    (著:角川文化振興財団
多摩と江戸    (著:大石学)
東京の自然史    (著:貝塚爽平)
【ビジネス】    
ベンチャーキャピタル全史    (著:トム・ニコラス)
マネジメントへの挑戦    (著:一倉定
デジタル時代の基礎知識「ブランディング」    (著:山口義宏)
経営者の孤独    (著:土門蘭)
パワララ上司を科学する    (著:津野香奈美)
できる逆引き Goole アナリティクス4    (著:木田和廣)
これならわかる!Googleアナリティクス4アクセス解析超入門    (著:志鎌真奈美)
スリップの技法    (著:久禮亮太)
【文芸】    
図書館のお夜食    (著:原田ひ香)
未明の砦    (著:太田愛
家族シアター    (著:辻村深月
境遇    (著:港かなえ)
Nのために    (著:港かなえ)
スティル・ライフ    (著:池澤夏樹
スノウ・クラッシュ(下)    (著:ニール・ステーヴィンソン)
スノウ・クラッシュ(上)    (著:ニール・ステーヴィンソン)
そして私たちの物語は世界の物語の一部となる    (著:ウルワシ・ブタリア)
哲学の門前    (著:吉川浩満
水中の哲学者たち    (著:永井怜衣)
南洋のソングライン    (著:大石始)
いのちは誘う    (著:宮本隆司
【その他】    
リトルプレスをつくる    (著:石川理恵)
野中モモの「ZINE」小さな私のメディアをつくる    (著:野中モモ
ネイマール:父の教え、僕の生きかた    (著:ネイマール
東大8年生    (著:タカサカモト)
歴史がおわるまえに    (著:與那覇潤)
アイヌ、風の肖像    (著:宇井眞紀子)
アイヌときどき日本人    (著:宇井眞紀子)
「いき」の構造    (著:九鬼周造
大学改革の迷走    (著:佐藤郁哉
ビジュアル・シンカーの脳    (著:テンプル・グランディン)
湯あがりみたいに、ホッとして    (著:塩谷歩波)