NFTの教科書を

図書館で待ちに待った一冊、やっと読めました。
出版から1年経っているので、動きの速いこの分野、きっと現時点では変わってきていることもあるかもしれません。
それでも、ひとまず読み終えた今の雑感をまとめてみたいと思います。

1.enforcerがいないと効力ないのでは

NFTというのはあくまでライセンス証と理解しました。なのでNFTを保有していても、対象データを所有するわけではありません。
いってみれば、商品についているタグのイメージでしょうか。
また対象がデータだから、排他的に占有することがそもそも難しいということもありそうです。

そうなると、対象データをNFT保有者以外の誰かがコピーしたり、発行者がNFTに書き込んだルールに反する利用をしたりしても、究極的にはNFT保有者には差し止める手立てがなく、泣き寝入りするしかありません。

NFTの保有が間違いなく効力を発揮するためには、NFTで合意された契約を enforceする主体が必要でしょう。

enforcerがいない場合にどうなるかは、悲しいかな、現実の国際社会がいい事例です。一番固くあってほしい国境線さえ、ルールを無視する主体に反故にされてしまいます。

 

2.目的に対してベストなソリューションなのか?

NFTを使って組織できるDAOの、会社や国を越えて参画したいプロジェクトに参画できる、貢献に応じてリワードがあるという仕組みは、これから時代のプロジェクト企画・運営に役立ちそうではあります。

ただ、DAOのエントリーに際して、暗号資産を手に入れてNFT買わなきゃいけないというステップって、本当に必須なのでしょうか?コミュニケーションツールにも結局Discord使うわけですし・・・

たとえば自分がDAOで何かを始めたい場合、ベストな布陣を組もうと候補者に声かけてOKもらっても、「じゃ、Coincheckに口座開いて、Metamaskインストールして、NFT買ってください」とは正直頼みづらいです。

すでにその準備ができている人の中から人選するとなると、範囲が狭まってしまいます。

また、アートにしても、原作者に2次流通の価値の一部が流れるというのはいい仕組みだと思います。ファンコミュニティを作るのにもぴったりそうです。

DAOにしても、アート・ファンコミュニティにしても、必要とされているのはスマートコントラクトの仕組みで、それを実現するのに今のNFTが本当にベストソリューションなのか、もっとユーザーフレンドリーな形で実装できないのか、立ち止まって考えてみてもいいのではないかと思います。

クレジットカードで決済できるくらいにならないと、ユーザーに求める負担がハードルになって広がらなさそうだなぁという印象です。

 

3.それでも腹は減る

国境をまたいで広がるメタバース内での契約、決済手段としてNFTが有望なのはよく分かりました。そして、メタバース経済圏も今よりきっと広がるでしょう。

でもユーザーが365日24時間のうちどこまでをメタバース過ごすことが想定されているのでしょう?
目指す水準として、どのくらいまでが適正なのか、という視点もあるように思います。

つまり、これは倫理・正義の問題です。

アバターが豪奢な家に住み、華やかなファッションに身を包み、最強の武器でバトルし、バーチャルオフィスに出勤していても、ユーザーのリアルな世界が豊かなものでなかったならば、それは望ましいことなんでしょうか。

アジールとしてそういう時空が必要な場合があるのはわかります。でも、メタバースにリソースを割くあまり現実世界がケアされなくなり始めると、それは違うのではないか?と思わざるを得ません。

生きてる以上、腹は減るし、出るものは出る。
自然環境の持続させるためには、現実世界の消費・流通を改めていかなければいけない。
物理的存在物に対して、なさねばならぬことが山ほどあるのが実情だと思います。

そんな中、AR的なメタバースならまだしも、VR的なメタバースにどのくらいリソースを費やすことが、地球ひいては人類そのものにとって幸せな結末をもたらすのか?

マインクラフトの家が20万で売れるかもしれないけど、それを買うのに20万費やしたいと思う人が果たしてどのくらいいるのか?よしんば欲しがる人がすごく増えたとして、それは本当に望ましいことなのか?
※マインクラフトについては、別途考えるところがあるのでそれはまた稿を改めて書きたいと思います。

メタバース経済圏は、現実世界との距離という物差しでみれば、金融資本主義以上の離れっぷりです。
確かに資本主義の新しいフロンティアたりえそうですが、まだその方向のフロンティアを盛大に広げたいんだっけ?という疑問が湧きます。
SDGsで、社会的な土台以上・環境的な制限未満の経済目指すんじゃなかったっけ?

 

On the ground

決してNFTを全否定しているわけではないのです。スマートコントラクトは発想としても仕組みとしても優れていると思います。

でもNFTであれば何でもOKということはないし、手放しで礼讃するのもちょっと違いそうだぞと感じています。
レッセ・フェールで大丈夫と考えるのは、非現実的であり非倫理的でもありそうです。

契約のenforcementや決済の融通性(一般の通貨でも参加・買い付けができるようにする)を考えると、残念ながらというべきか、公的主体の関わりは必ず必要になるのではないかと思います。
現実世界にいい影響をもたらすサービスを促進し、悪影響をもたらすサービスは自然に淘汰されるか規制するような介入も求められるでしょう。

最近、NFTの売れ行きがよろしくないというニュースを目にしました。折からの金融引き締めの余波もあるかもしれませんし、NFT自体の減滅期に入ったのかもしれません。熱狂が一息ついたこのタイミングはより現実世界との接点を深める議論をする好機なのではないでしょうか。

NFTが現実世界に根を持ち、健全に発展する未来がやってきますように。