チョコレートコスモス(著:恩田陸)を読みました

文章によって他の芸術分野の心震える瞬間を描写するという恩田陸の「越境モノ」の(多分)先駆け的な小説。

演劇が題材の本作は、新国立劇場こけら落としの公演のためのオーディションに参加した二人の女優を軸にストーリーが展開します。
クライマックスのシーンでは、持ち前の豊かな表現力によって、演じることのその先にはどんな世界が広がっているのか、そこに行くことができたものだけが味わえる感覚が臨場感あふれる筆致で描かれ、読んでいるこちらまで胸が熱くなります。

 

チョコレートコスモス』と同じ2006年、後を追うようにして発表された同じく演劇を題材とする『中庭の出来事』が、ストーリーの展開の仕方において演劇を再現しているような小説であったのに対して、本作は小説としてのスタンダードな展開ではあるものの、演劇を観ているときに感じる「この次はどうなるんだろう?」という独特の緊張感が全編にみなぎっていて、途中で読むのを中断することを許さない疾走感があります。

 

環境にも恵まれ幼い時から訓練を積んだ俊才と、野性的ではあるものの天才的な才能で駆け上がってきた異才の邂逅という構図は、『蜜蜂と遠雷』にも通ずるものがありました。

 

もともと3部作の構想の第一部がチョコレートコスモスだったようですが、続編は連載していた雑誌が廃刊になってしまって中断したままなんだそう。なんて残念!
せめて著者が初めて書いた戯曲「猫と針」でも読んでみようか。

 

演劇に縁がなかった人も、ぜひ本作を読んで演劇にハマってみてください。笑

 

チョコレートコスモス (角川文庫)

チョコレートコスモス (角川文庫)