新築がお好きですか?日本における住宅と政治(著:砂原庸介)を読みました

日本の住まうことにかかるコストが高いのは、今の広義での「制度」的環境を前提とすると各主体の合理的選択として新築住宅を売買することが均衡点になる(そしてそこから逸脱すると不利を被る)からだ、ということを諄々と説いている一冊です。

 

広義の「制度」として取り上げられているものには例えばこんなものがあります。

1.法律・条令・・・住宅ローン減税といった税制や緩い土地利用制限しか課せない都市計画法、都市内での個別的利益が代表されやすい地方議会の選挙制度、借家人の権利をとても強くしている借地借家法など

2.取引費用・・・売買 vs 賃貸・新築 vs 中古で異なっておりそれぞれ売買、新築が有利

3.政府の介入・・・賃貸が行き詰まり結果的に新築購入の支援に傾いていく

4.文化・慣習・・・空き家になっても二次流通をためらわせる要因になっている

 

それぞれの詳しい内容・影響については本書で分かりやすく解説されているのでぜひそちらをお読みいただくとして、読み終わって改めて感じたことは、住宅をサービスとして考えたときに (=購入・賃貸、新築・中古に関わらず住まうことをサービスとして享受するとしたとき)、移動可能性という面でも社会福祉という面でも、もっと連続性がありポータブルな公的補助が必要なのではないか、ということでした。

購入した不動産に資産性があるならなおのこと住宅ローンにだけ減税措置があるのは正当化が難しいし、むしろ資産として残らない賃貸の方にこそ手厚い補助(例えば家賃補助)がなされて然るべきじゃないかとか、そもそも新築住宅を買える層(いくら低金利の恩恵や銀行側の貸し出し競争があるとは言え)にだけ優遇措置があるのは制度として逆進的じゃないかとか、これだけ地方移住だ多拠点居住だと言われている中で移動を困難にする新築購入にだけ優遇措置をつけるのか、とか、とにかくどっち向いても融通利かなすぎなんじゃないでしょうか。

「制度」は人々の選択と循環的にお互いを強化するので一朝一夕に変わらないのは確かだと思いますが、著者も指摘する人口減少や、働き方・居住場所の自由度を求める傾向の強まりから人々の選択が変わってきてそれが「制度」を変える可能性はあるのかもしれません。

 

ちなみに、最近住宅・店舗のリノベーションによる再活用が盛り上がりを見せていますが、本書を読むとそれがどれだけ社会的意義がある取り組みなのかを感じられると思います。

 

それにしても、あとがきでも本書の執筆に至った経緯に少し言及されていますが、「なんでやねん!」と感じた個人的憤りを飲み屋のくだまき話に終わらせず、研究の糧として著作にまで昇華させて回収した著者は根っからの研究者だな、と改めて感服しました。

 

 こういうその人ならではの物事や出来事の見方・捉え方のクセって、研究者の人には特に強くあるような気がします。それを可視化する場って面白そう。いつか機会を作りたいなぁ。その時にはぜひ本書著者にもご登壇をお願いしたいと思います。