「民藝とは何か」(著:柳宗悦)を読みました

2017年は柳宗悦さんの『民藝とは何か』からスタートしました。
外国から来るゲストを迎える上でも、日本らしい美意識・芸術って何だろう?というのは一度立ち止まって考えてみるべきポイントなんじゃないかと思います。 

 「民衆が日常的に使う工藝品が民藝である。民藝は、安価でありふれているからといって美しくないわけではない。むしろ無心に制作され、実用に供されるからこその健全な美が見られる。制作者名や価格などに縛られず、茶の湯の先駆者のように美を直感的に捉えなければならない。」(127字)

「民藝」という言葉、聞いたことはありましたが、こういう思想だったのね、というのは初めて知りました。本文自体は短いですが、入門書としてはまさに格好の一冊です。

「民藝品には実用に供されるからこそのシンプルで健全な美しさがある」という『用の美』の美意識は、シンプルだけど機能的というパタゴニアのプロダクト開発の思想と通じるところがある世界観だなぁと感じました。

 無印良品の食器類は現代の民藝品?とも思いましたが、時代背景のせいか、民藝品は各地の職人たちが共同で制作するものである、という定義があったので、厳密に言うと当てはまらないのかもしれません。
しかし、美意識の部分では近いものがあるような気がしていて、きっとそれが外国でも支持される理由なんじゃないかと思います。

精選した民藝品を展示している日本民藝館は、なんと駒場にあるそうで、全く知らなかった!
梅の咲くころに一度行ってみようかなっと。

 

民藝とは何か (講談社学術文庫)

民藝とは何か (講談社学術文庫)

 

 

2016年の読書まとめ

年の瀬らしく、2016年の読書を振り返ってみました。
合計90冊でした。
読むの早いねーと言われることもありますが、早い人は1日1冊ペースとかもっと早いですよね。

ジャンル別に分類すると、おおよそ下記の通り。
こうしてみると、何となく自分の頭の中の成分が棚卸しされたような感じがします。

 

1位 日本文化・社会・政治(14冊)

2位 コンピューター・AI(13冊)

2位 小説(13冊)

4位 宗教・哲学(12冊)

4位 中東・イスラム(12冊)

6位 グローバル・貧困(7冊)

7位 アート・図書館(6冊)

7位 ビジネス書(6冊)

9位 薩摩・鹿児島(4冊)

10位 その他(3冊)

 

どの本もその時の自分の心境・関心に合って出会ったと思っているので、なかなか甲乙つけがたいのですが、敢えて今年の3冊を選ぶとこれかな。

 

葬式をしない寺―大阪・應典院の挑戦 (新潮新書)

葬式をしない寺―大阪・應典院の挑戦 (新潮新書)

 

  

坊さん、父になる。

坊さん、父になる。

 

  

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか

 

どれも、ちょっと長い目で見て、どういう心づもりで世の中と向いあっていこうか、どういう姿勢で生きようかという指針に触れた一冊だったと思います。

 

あともう1冊オススメするとしたら、これ。 

となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代

となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代

 

読みやすい文章でムスリムの人たちの目に社会が・世界がどう映るかを窺い知ることができる良書だと思います。

 

さて、2017年はどんな本と出会うかな!

 

付録 2016年リーディング・リスト

↓本棚形式ではこちら

http://booklog.jp/users/offvola?tag=2016&display=front

【日本文化・社会・政治】 14冊

スポーツのちから
日本成長戦略40歳定年制
憲法の涙 リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください2
リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください
山谷ヤマの男
1941決意なき開戦
保守主義とは何か
自由からの逃走
「空気」と「世間」
空気の研究
アースダイバー
下り坂をそろそろと下る
「思いやり」という暴力
対話のレッスン

【小説】 13冊
ブラインドマッサージ
あたらしい名前
ピンクとグレー
服従
ジニのパズル
舟を編む
神無き月十番目の夜
出星前夜
黄金旅風
天空の蜂
片耳の大シカ
ソロモンの偽証
わたしを離さないで

【コンピューター・AI】13冊
なめらかな社会とその敵
ビットコインとブロックチェーン
人口知能は敵か味方か
VRビジネスの衝撃
シグナル&ノイズ
幸せな未来は「ゲーム」が創る
人口知能
スピリチュアル・マシーン
ポスト・ヒューマン誕生
ビッグデータの開拓者たち
IBM奇跡の”ワトソン”プロジェクト
大格差
大停滞

【中東・イスラム】12冊
イスラーム国の黒旗のもとに
中東政治学
サイクス=ピコ協定百年の呪縛
イスラム国」の内部へ
となりのイスラム
オリエントの嵐-中東現代史
砂漠の豹イブン・サウド-サウジアラビア国史
灰色の狼ムスタファ・ケマル-新生トルコの誕生
オリエンタリズム(上)
オリエンタリズム(下)
<中東>の考え方
移ろう中東、変わる日本

【哲学・宗教】12冊
入門近代仏教思想
アメリカと宗教
宗教からよむ「アメリカ」
子どもの難問
坊さん、父になる。
ボクは坊さん。
生きがいについて
<ひと>の現象学
葬式をしない寺
パラレルな知性
哲学の使い方
哲学カフェのつくりかた

【グローバル・貧困】7冊
アジア×カメラ
世界天才紀行
見えざる手をこえて
「その日暮らし」の人類学
水の未来
暗黒・中国からの脱出
あなたが世界のためにできるたったひとつのこと

【ビジネス書】6冊
10%起業
リーンスタートアップ
キャッチコピー力の基本
「分かりやすい表現」の技術
サイロ・エフェクト
ZERO to ONE

【アート・図書館】6冊

建築の大転換
拝啓市長さま、こんな図書館をつくりましょう
芸術立国論
アートは資本主義の行方を予言する
ネット時代の図書館戦略

【鹿児島・薩摩】4冊
鹿児島学
残響
薩摩藩英国留学生
長沢鼎ブドウ王になったラスト・サムライ

【その他】3冊
巨大数
村で病気とたたかう
おとなが育つ条件

 

 

「なめらかな社会とその敵」(著:鈴木健)を読みました

振れ幅がとっても大きい本でございました。

「人間の認知・対応能力の限界により近代社会では国民国家の境界で分割し世界を理解・構成してきたが、コンピューターとネットの発達はその限界を超えることを可能にした。今や個人・国家の境界を緩やかにし、複雑な世界を複雑なまま生きる経済・政治・インテリジェンスの仕組みが技術的には実現できる。」(140字)

近代社会のメジャーバージョンアップを目指すだけあり、飛びだすテーマが社会科学から生物学から、情報科学から、とかく幅広い。

私的所有や統治システムを、生物の「膜」・「核」・「網」のロジックをアナロジーとして用いて説明するあたり、かなり斬新でした。
※生物がどこから生物になるかというと、化学反応が「網」の中でバラバラ起きているだけではまだ生物と言えない。「膜」ができて内部に化学物質と反応を囲い込み、「核」がコントロールしてより効率的に反応を起こし始めると生物と言えるようになる、ざっくりいうとそういうロジックです。

近代社会というのは、本来そんなに簡単に単純化できない自由意思を持った個人と、その個人が社会契約を結んでできた国民国家、というモデルにある意味安易に依拠してきました。
しかし、それらは本来複雑なものをシステムの内・外に押し込めた分断された社会となり、歪みを生んできました。

しかし、コンピューティングとネットの発達は、単純化せざるを得なかった人間の理解・認知を爆発的に拡大させることができます。

今や無理やり「膜」で囲い込まれた内側と外側とにわけなくとも、「網」の中にいる重層的・並行的な主体をその多様性を損なわないまま結びつけることができるようになってきている、そうした急激な断絶を伴わない、複雑さを複雑なまま受け止められる社会のあり方を「なめらかな社会」として、筆者は措定します。

その「なめらかな社会」の具体的な実現方法として筆者が素描して見せるサブシステムが、貨幣システム=伝播投資貨幣PICSY、投票システム=伝播委任投票、法システム=伝播社会契約、軍事システム=伝播軍事同盟の4つです。

詳細は本書に譲りますが、いずれのシステムも基本的な性質としてては、「一貫した自由意思を持つ個人」と「国家」を相対化し、個人の選択や行動がネットワークを経由して累積していくこと、メンバーシップをオープンにすること、が特徴かと思いました。

語感からすると「なめらかな社会」はとっても優しそうな響きがありますが、複雑さを複雑さとして受けとめ、一貫性を欠くかもしれないけれども自分なりの理解と選択で社会と関わり、社会を動かしていく主体となることが求められるという意味では、誰か(=国家)に寄りかかりつつ何かあれば(またはなければ)その誰かのせいにしていればよかった「なめらかでない社会」よりよっぽど厳しい社会ではないかなぁと感じました。

著者も本書の成りたちのところで書いてましたが、学科が細かく分かれる前のような、横断的な議論を経て上梓された本書は、読んでて予想がつかず読み応えある面白い一冊でした。

※著者自身もその後スマートニュース社のCEOになられたみたいで、そこもすごい振れ幅だなぁ。

 

なめらかな社会とその敵

なめらかな社会とその敵

 

 

 

 

「世界天才紀行―ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで」(著:エリック・ワイナー)を読みました

読了。

「天才はある時期、ある場所で集中して生まれる。アテネ杭州フィレンツェエディンバラカルカッタ、ウィーン、シリコンバレー。天才は生まれつきでも努力で作られるものでもない。無秩序で、多様性に富み、選別力が働く『場所』によって育まれるものである。」(122字)

天才がある時・ある場所に集中して発生していた、というのは本書の書評を見る時まで考えもしていませんでした。
エディンバラカルカッタは意外でしたが、読んでみればなるほど、確かに。

明日は今日と同じではないという混沌が新しいものを生み出す活力を産み、多様性が既存の枠を超えた見方を寛容に受け入れる。
そして何より、様々な新しいもの・チャレンジからその時・その場所にとって「意味があるもの」を選び尊ぶ選別眼を持った人たちがいる。
そういう場所で創造力が解き放たれ、天才が出現する。
しかも創造力が創造力を呼び、次々に分野をまたいで天才が出現する。
そういうことのようです。

著者自身も指摘していますが、最後の選別眼を持った人々の存在というのが忘れられがちで、でも大事な存在だなと感じました。

「その国で尊ばれるものが、洗練される」

本書の内表紙に掲げられたプラトンの言葉がこれをよく集約しています。

本書の結論に照らした時に、今の日本、今の東京は果たしてどんな場所だろう?
混沌と多様性は、見方によっては見出すこともできるかもしれない。
一番肝心の「尊ぶもの」として何を選別しているだろう?
携帯ゲーム?アニメ?マンガ?
ここのところの「美学」が一番心もとなさそうだなぁ・・・

著者エリック・ワイナー氏は、デビュー作も「世界しあわせ紀行」という、世界で一番幸せな国を求めやはり世界中を旅してまわった本のようです。
きっとこちらも博識に裏付けられたウィットに富んだ紀行文なのでは、と思います。
次回はこちらも読んでみようっと。

 

世界天才紀行――ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで

世界天才紀行――ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで

 

 


「10%起業 1割の時間で成功をつかむ方法 」(著:パトリック・J・マクギニス)を読みました

読了。
たまには読むんですって、こういう本も。

「今やひとつの仕事だけでは十分ではない。専業での起業はリスクが大きいが、自分の時間・資金・長所を有効活用し長期的に臨めば、本業を続けながら10%程度のリソースを投じて投資家、アドバイザー、設立者として起業することもできる。それは社会的・経済的に豊かな人生と本業のバックアップをもたらす。」(140字)

主にサラリーマン向けの本でしたが、ちっちゃな会社の新規事業の立ち上げ方としても参考になるアプローチでした。

どこまで実践を徹底するかは人それぞれかもしれませんが、マインドとしてそのつもりでいると、いろんな可能性にオープンでいられるようになって、ちょっと行動が変わって、そうでなかった時と比べて結果もちょっと変わる、みたいなことはあると思います。

副業・兼業が奨励されるような流れが出て来始めていますが、そうなるとこういう起業の形も増えていくんだろうなぁ。

 

10%起業 1割の時間で成功をつかむ方法

10%起業 1割の時間で成功をつかむ方法

 

 

 

「イスラーム国の黒旗のもとに ―新たなるジハード主義の展開と深層― 」(著:サーミー・ムバイヤド )を読みました

読了。
ISIS、ヌスラ戦線など、最前線でジハードに当たる個人を丁寧に描き連ねることで、かえってこれらの運動がいかに過去の経緯に根差した抜き差しならぬものであるかが見て取れます。

「ISISの思想・人的基盤は一朝一夕に形成されたものではない。サラフィー主義・ジハード主義という思想は14世紀初頭の神学者にルーツを持ち、アフガン・イラク紛争を経て培われたネットワークがジハードのノウハウを継承している。ISISはすぐ消滅する一時的存在ではないという事実を認識しなければならない。」(140字)

圧倒的な量の個人名が出てくる本です。
アラブ風の名前に慣れない者としては、各個人名がすっと頭に入らず、追うのが大変でした。。。
しかし、ムスリム同胞団アルカイダ、ISI、ヌスラ戦線、ISISといった運動体相互間で、どんな人的つながり(統率者=非統率者、指導者=非指導者、戦友)があったのか、本書でよく明らかにされています。そしてISISが軍事的に強いのは、イラクフセイン政権下で軍人だった人たちをまとめて要職につけているから。

時にはアメリカ占領下のイラクの刑務所も、ジハード主義者の出会いの場ともなっていたようです。
小説で少年院や刑務所が次の「プロジェクト」のチームビルディングに貢献してしまうという場面が出てくることがありますが、まさにそんな感じでしょうか。

イスラムの多数派であるところのスンナ派に指導力のあるリーダーがおらず、その間隙をぬってバグダーディーがカリフを僭称できたという指摘は、なるほど、と思いました。

戦況としては最近ISISは徐々に追い込まれていますが、たとえまとまった領土を失ったとしても、運動のエネルギーは薄まって地理的に拡散するだけで、きっとゼロにはならないんだろうな。

これ以上の惨劇を防ぐために一体何ができるんだろうか…

 

イスラーム国の黒旗のもとに ―新たなるジハード主義の展開と深層―

イスラーム国の黒旗のもとに ―新たなるジハード主義の展開と深層―

 

 

 

「ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術」(著:アンドレアス・M・アントノプロス)を読みました

読了。
wired立ち読みしても全然分かんなかったけど、この本の末にある解説は超まとまっていて分かりやすかった!

ビットコインでは、ネットワーク参加者が分権的にデータを圧縮・検証・アーカイビングし、結果の集積=ブロックチェーンをユーザー間で同期しながら共有する。圧縮には大量の計算が必要で、一時点のデータを改竄すると以後のデータも全て再計算しなければならないため、実質的に改竄を困難にしている。」(140字)

ビットコインを成り立たせているブロックチェーンの原理を技術的に解説した本。
コードも出てきて「うへ、無理かも」と思ったのですが、分からないところ飛ばしながらならぎりぎり読みこなせます。

基本的には、簿記でいうところの仕訳データをどう束ねて保存して共有するか、という仕組みなんだなぁと理解しました。

複数の仕訳データをまとめて圧縮するのですが、その時、仕訳データ本体と、まとめられた塊(=ブロック)についての情報と、ひとつ前の塊についての情報と、もうひとつの変数Xをある関数に当てはめ、その答えが一定の条件(分かりやすく言ってしまえばある数値以下になること)を満たすようなXを探しあてられたら圧縮が成功するという原理になっています。
X自体は総当たりで当てはめてみるしか探す方法がないということで、そのため圧縮時にとてつもなく大量の計算を行わなければいけません。
各塊=ブロックは前のブロックの情報を参照しているため、ある時点のデータを改竄しようとすると、その改竄が以後のブロック全てに波及し、全ブロックについて再計算・圧縮し直ししなければならず、その計算量が膨大すぎるて実質改竄が難しいため、たとえデータをパブリックに共有していても適正に保存し続けられるという仕組みになっています。

マウントゴックスの一件があって日本では長らく胡散臭く見られていましたが、果たしてブロックチェーンは(どのくらい)破壊的イノベーションなんだろうか?と気になっていたのです。

本書は、どちらかというとビットコイン・ブロックチェーンの構成要素ごと(トランズアクション、ブロック、ブロックチェーン、ウォレットなど)の解説書で、どのくらいのインパクト・応用性あるかというのは他の本あたった方がよさそうですが、仕組みの理解という意味では役に立つ一冊でした。
最初に読めてよかったかもな。

さて、次は応用についての本を読んでみよう。

 

ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術

ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術