ボコ・ハラムーイスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織(著:白戸圭一)を読みました

毎日新聞記者の著者の手による、少女200人以上を誘拐し世界に衝撃を与えたボコ・ハラムの誕生から今日に至るまでの系譜を追った本。 

 

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ナイジェリアは、人口成長率が経済成長率を上回りひとりあたりGDPが下がるような経済停滞の時期を経験した後、資源価格上昇の波に乗り2003年~2012年の平均成長率が5.9%という高度成長を遂げる。
しかし世界数多くの資源国の例と違わず、この成長の成果はナイジェリア国内で均等には配分されず、腐敗や大きな経済的格差を生み出した。それと同時にこの間も人口は増え続けたため、失業状態にある若年層も増えていった。

こうした社会の歪みの原因を西洋型の政治・経済制度に求めた一部のイスラム教徒は、イスラム法シャリーアの導入と厳格な運用を求めるようになる。
その声を受けイスラム教住民が多数いるナイジェリア北部の諸州では、選挙の際シャリーアの導入をかかげる政治家も出てきたものの、いざ当選すると実際に運用することはなかった。

これを裏切りととらえ既存制度への不信・不満を募らせたグループが、イスラーム反政府運動を展開し始める。
そしてボコ・ハラムも、その起源をたどればこうしたイスラーム反政府運動組織のひとつに過ぎなかった。

 

しかし拘束された指導者が獄中で警察官により射殺されたこと、治安当局の弾圧を受け国外に一時退避したメンバーがソマリアアルジェリアアルカイダとかかわりのあるテロ組織と接触したことから、ボコ・ハラムはグローバル・ジハードを掲げたテロ集団に変容していく。

正規軍と正面衝突しても勝ち目のないボコ・ハラムにとって、衝撃的な手段によりテロ行為を行うことは、グローバル・ジハードの系譜に自らを位置づけ、ヒト・モノ・カネを呼び込む手段であった。こうして一躍世界にその名を広めることになる少女の集団誘拐事件を起こすに至ったのである。

 

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イスラーム国に関する書籍でも述べられていましたが、基本的に人がテロ組織に走る原因は同じところにあるように思います。

雇用機会が十分でない中、一部の富める者は富み、他多数は失業など不安定な就労状態が続く。
既存の制度を見てみても、腐敗が横行し、すでに経済的・政治的パワーを有した人たちに有利に働いているように思われ、それを制度内の方法で正す可能性が見いだせない。これは宗教的には堕落した状態であり、イスラーム本来のシャリーアに基づく社会統治を実現しなければ回復できない。
だから体制転換のための聖戦=ジハードが必要だ。

大まかに言うとこれがテロに走る人たちの思考回路にあるようです。

(ちなみにこう考えるようになるには社会を俯瞰してみる視点が必要なため、テロ組織に加わる人の中に高学歴の人が多いのはある意味さもありなん、なことなのだそうです。)

 

著者も指摘の通り、テロ組織にとってはグローバル・ジハード=資源(ヒト・モノ・カネetc.)を集めるために必要な旗印、すなわち「ブランド」となっている。

そのことも踏まえて、テロ(とテロ組織に走る人)を減らしていくためにはいくつかの段階が考えられるんじゃないかと思います。

〇グローバル・ジハードの「ブランド力」を低下させる。それにはもっと有効かつクールな解決策のオプションが必要。

〇既存社会にみられる歪みを正す方法はシャリーアの厳格な導入・運用しかない、という接続関係を切れないだろうか?食品にハラルがあるように、法・制度にもシャリーアそのものではなくともイスラム適合的であるというハラルの認証が付与できないか?

〇もっとも、一番根源的な解決策は、雇用機会の拡大その他の方法によって社会参加・一定の経済力獲得の機会を提供し、ガバナンスを改め、より広い社会的包摂を実現すること。

 

法曹の世界にリーガルマインドがあるように、シャリーアにもより抽象的な次元でのマインドがありえるんじゃないか(字面を超えた解釈を禁じる考え方もあるかとは思いますが)。
両者をメタ化した上で接点を探り、現実の制度に落とし込んでいくという作業ができれば、既存のシステムから排除されていると感じるテロ予備軍を減らすことができる、と考えるのは楽観的過ぎでしょうか。

 

ボコ・ハラム:イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織

ボコ・ハラム:イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織