アメリカ大都市の生と死(著:ジェイン・ジェイコブズ)を読みました

創造都市の本を何冊か読むと必ず言及されていた本書。やっと読むことができました。

 

より人間的で活気のある都市空間を守ろうと、市民活動家として画一的な当局の都市開発と渡り合ってきた経験もふまえ、都市開発は何を目指しいかに進められるべきかを論じた一冊です。

 

本書を読むにあたっては、訳者山形浩生さんの解説がとても参考になりました。
それは本書が書かれた当時のアメリカにおける大都市の状況と、もともとが活動家である著者が書いた内容の性質・カバーしうる射程についての解説です。

 

著者は、本書を大都市において人々が次々郊外に転出していき中心地の空洞化・スラム化が進んだ1950年代を経た当時(1961年発刊)の文脈だからこそ妥当する内容というつもりで著したのであって、いつでも・どこでも適用可能な理論を打ち出すつもりではありませんでした。(本文中で著者自身も触れています。)
そうした成り立ち・著者自身のバックグラウンドからして、著者自身が居住・活動していたニューヨークのグリニッジ・ビレッジやその他いくつかの都市についての観察や考察に基づき、経験的に書かれているものでもあります。
そのため、今ある現実に対処して何かをしようとしたとき、本書からストレートに処方箋を導くことは実務的に難しく(具体的なサイズ感やターゲット数値の設定など)、またそうすべきでもないのだろうと思います。

 

しかしそれでも著者の観察・分析は地に足がついた詳細なもので、今の時代でも実際に起きていることに通じていて、さすが古典に数えられるだけのものがあります。

用途の混合、短い街路、古い(賃料の安い)建物、人の密集、という著者が挙げる都市の多様性を生み出す4条件も、目標値の設定のためではなく、「もしかしたらこれが損なわれている/損なわれるんじゃないだろうか」という診断的な使い方としては十分有用そうです。

 

しかし本書を読むと、やっぱり今渋谷のあちこちで進められている再開発は多様性を損なう方向に働いている気がしてならないのです。10年後、15年後、あの街はどうなっているだろうか....

 

アメリカ大都市の死と生

アメリカ大都市の死と生