神様のカルテ0(著:夏川草介)を読みました
神様のカルテシリーズ、3巻まで進んだ後に発刊された本書。一止たちが医学生だった頃や、研修医時代など、シリーズが始まる前の前史を綴った短編集でした。
他3冊と同じく、本書もやはりストーリー・文章ともに素晴らしかったです。
シリーズのタイトルをそのまま冠した「神様のカルテ」は、電車の中で読んでいて危うく落涙しそうになり、慌てて本を閉じました。
神様のカルテシリーズのいいところは、誰も悪い人、悪意を持った人が出てこないところだと思います。みんなそれぞれ事情や訳を抱えながらも、持ち場のところで葛藤し奮闘している、そんな様が読む人の心を打つのでしょう。
そしてそのストーリーを進行させる文章が、またうまい。
ムダなくすっきりしていて読みやすいのだけれども、各場面の情景やそこに流れる空気感がたっぷり情感を湛えて伝わってきて、まるで自分がその場に居合わせるような感覚さえ持ってしまいます。
神様のカルテを読むといつも無性に松本に行きたくなります。行って、小料理屋の木戸をひょいとくぐってカウンターで日本酒を飲みたい。松本城の上に昇る月を眺めたい。朝焼けに輝く山々を見上げたい。
それほどまでに豊かに表現力を、著者の文章は持っていると感じています。