「私たちは子どもに何ができるのか」・「成功する子 失敗する子」(著:ポール・タフ)を読みました

これをやっておけば一生安泰という道がなくなり不確実性が増す一方の未来を生きる子どもが、将来成功を収めるために何が必要なのかを考察した本。2冊セットで読むことをお勧めします。

 

著者の主張の眼目は概要以下の通りです。

・子どもの将来の成功のためには認知能力(=読み書き計算のスキル)より非認知能力(=誠実さ、やり抜く力、レジリエンス、粘り強さ、オプティミズム)の方が大切。

・非認知能力は教科のように教えられるものではない。非認知能力を育むためにできることは、環境を整えることである。(eg.アタッチメント形成、失敗し立ち上がる経験を積む関わり方、etc.)

 

これら2冊はアメリカのケースを取り上げたものですが、家庭の貧困と子どもの将来の不成功の連鎖についても分析されています。

子どもは恒常的に高いストレスにさらされると、防御反応が過剰に働いて、自分の行動や感情をコントロールする脳の前頭前皮質の健全な機能を損なうことにつながるのだそうです。それが落ち着いて何かに取り組んだり他者と人間関係を築くことを妨げ、学業・生活の両面で学校でうまくやっていけなくなり、その先の道が閉ざされることにつながっていきます。本書でもストレス負荷が高い子どもほど、職業面でも収入が低くなり、健康面でも様々な疾患にかかりやすくなることが実際のデータを引きながら示されていました。

アメリカで貧困に襲われている家庭は、多くのケースで親が十分に働けない環境にあり、それは親が何らかの病気や依存症であったり、片親であったり、あるいはその両方である場合が多い。つまり、家庭環境が不安定で、子どもが高いストレスにさらされやすい状況にあると考えられるのです。しかも、そのような家庭環境では、本来子どもがストレスに対峙するときのクッション代わりとなる親とのアタッチメント形成も望むことが難しくなります。

一般的に子どもの学業面の成績は収入が高いほどよくなりやすい傾向がありますが、それを子どもが受けているストレスの負荷の度合いで調整すると、成績差はなくなるという実証研究が紹介されていました。つまり貧困であることはそれ自体(本や知育玩具をそろえられない、塾他教育費を支出できないなどの理由から)が子どもの成績を下げる要因になっているのではなく、貧困に伴いがちな家庭環境の不安定さなど高いストレス負荷がかかることが、子どもの成績低下の原因となっているということを示唆しているのです。

 

上記のような貧困の連鎖の仕組みは、日本も共有している部分があるのではないでしょうか。家庭と子どもを守り支えるメニューとしては、生活補助から自治体のネウボラサービス、児童相談所など、多岐にわたるファシリティがありますが、それらを子ども自身を中心に据え、「ストレス負荷をうけずに育つ権利」を十分に保証できる内容になっているかという視点で点検し見直していくことも必要なのではないかと思いました。

 

 

私たちは子どもに何ができるのか――非認知能力を育み、格差に挑む

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成功する子 失敗する子――何が「その後の人生」を決めるのか

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