「世界天才紀行―ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで」(著:エリック・ワイナー)を読みました

読了。

「天才はある時期、ある場所で集中して生まれる。アテネ杭州フィレンツェエディンバラカルカッタ、ウィーン、シリコンバレー。天才は生まれつきでも努力で作られるものでもない。無秩序で、多様性に富み、選別力が働く『場所』によって育まれるものである。」(122字)

天才がある時・ある場所に集中して発生していた、というのは本書の書評を見る時まで考えもしていませんでした。
エディンバラカルカッタは意外でしたが、読んでみればなるほど、確かに。

明日は今日と同じではないという混沌が新しいものを生み出す活力を産み、多様性が既存の枠を超えた見方を寛容に受け入れる。
そして何より、様々な新しいもの・チャレンジからその時・その場所にとって「意味があるもの」を選び尊ぶ選別眼を持った人たちがいる。
そういう場所で創造力が解き放たれ、天才が出現する。
しかも創造力が創造力を呼び、次々に分野をまたいで天才が出現する。
そういうことのようです。

著者自身も指摘していますが、最後の選別眼を持った人々の存在というのが忘れられがちで、でも大事な存在だなと感じました。

「その国で尊ばれるものが、洗練される」

本書の内表紙に掲げられたプラトンの言葉がこれをよく集約しています。

本書の結論に照らした時に、今の日本、今の東京は果たしてどんな場所だろう?
混沌と多様性は、見方によっては見出すこともできるかもしれない。
一番肝心の「尊ぶもの」として何を選別しているだろう?
携帯ゲーム?アニメ?マンガ?
ここのところの「美学」が一番心もとなさそうだなぁ・・・

著者エリック・ワイナー氏は、デビュー作も「世界しあわせ紀行」という、世界で一番幸せな国を求めやはり世界中を旅してまわった本のようです。
きっとこちらも博識に裏付けられたウィットに富んだ紀行文なのでは、と思います。
次回はこちらも読んでみようっと。

 

世界天才紀行――ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで

世界天才紀行――ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで

 

 


「10%起業 1割の時間で成功をつかむ方法 」(著:パトリック・J・マクギニス)を読みました

読了。
たまには読むんですって、こういう本も。

「今やひとつの仕事だけでは十分ではない。専業での起業はリスクが大きいが、自分の時間・資金・長所を有効活用し長期的に臨めば、本業を続けながら10%程度のリソースを投じて投資家、アドバイザー、設立者として起業することもできる。それは社会的・経済的に豊かな人生と本業のバックアップをもたらす。」(140字)

主にサラリーマン向けの本でしたが、ちっちゃな会社の新規事業の立ち上げ方としても参考になるアプローチでした。

どこまで実践を徹底するかは人それぞれかもしれませんが、マインドとしてそのつもりでいると、いろんな可能性にオープンでいられるようになって、ちょっと行動が変わって、そうでなかった時と比べて結果もちょっと変わる、みたいなことはあると思います。

副業・兼業が奨励されるような流れが出て来始めていますが、そうなるとこういう起業の形も増えていくんだろうなぁ。

 

10%起業 1割の時間で成功をつかむ方法

10%起業 1割の時間で成功をつかむ方法

 

 

 

「イスラーム国の黒旗のもとに ―新たなるジハード主義の展開と深層― 」(著:サーミー・ムバイヤド )を読みました

読了。
ISIS、ヌスラ戦線など、最前線でジハードに当たる個人を丁寧に描き連ねることで、かえってこれらの運動がいかに過去の経緯に根差した抜き差しならぬものであるかが見て取れます。

「ISISの思想・人的基盤は一朝一夕に形成されたものではない。サラフィー主義・ジハード主義という思想は14世紀初頭の神学者にルーツを持ち、アフガン・イラク紛争を経て培われたネットワークがジハードのノウハウを継承している。ISISはすぐ消滅する一時的存在ではないという事実を認識しなければならない。」(140字)

圧倒的な量の個人名が出てくる本です。
アラブ風の名前に慣れない者としては、各個人名がすっと頭に入らず、追うのが大変でした。。。
しかし、ムスリム同胞団アルカイダ、ISI、ヌスラ戦線、ISISといった運動体相互間で、どんな人的つながり(統率者=非統率者、指導者=非指導者、戦友)があったのか、本書でよく明らかにされています。そしてISISが軍事的に強いのは、イラクフセイン政権下で軍人だった人たちをまとめて要職につけているから。

時にはアメリカ占領下のイラクの刑務所も、ジハード主義者の出会いの場ともなっていたようです。
小説で少年院や刑務所が次の「プロジェクト」のチームビルディングに貢献してしまうという場面が出てくることがありますが、まさにそんな感じでしょうか。

イスラムの多数派であるところのスンナ派に指導力のあるリーダーがおらず、その間隙をぬってバグダーディーがカリフを僭称できたという指摘は、なるほど、と思いました。

戦況としては最近ISISは徐々に追い込まれていますが、たとえまとまった領土を失ったとしても、運動のエネルギーは薄まって地理的に拡散するだけで、きっとゼロにはならないんだろうな。

これ以上の惨劇を防ぐために一体何ができるんだろうか…

 

イスラーム国の黒旗のもとに ―新たなるジハード主義の展開と深層―

イスラーム国の黒旗のもとに ―新たなるジハード主義の展開と深層―

 

 

 

「ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術」(著:アンドレアス・M・アントノプロス)を読みました

読了。
wired立ち読みしても全然分かんなかったけど、この本の末にある解説は超まとまっていて分かりやすかった!

ビットコインでは、ネットワーク参加者が分権的にデータを圧縮・検証・アーカイビングし、結果の集積=ブロックチェーンをユーザー間で同期しながら共有する。圧縮には大量の計算が必要で、一時点のデータを改竄すると以後のデータも全て再計算しなければならないため、実質的に改竄を困難にしている。」(140字)

ビットコインを成り立たせているブロックチェーンの原理を技術的に解説した本。
コードも出てきて「うへ、無理かも」と思ったのですが、分からないところ飛ばしながらならぎりぎり読みこなせます。

基本的には、簿記でいうところの仕訳データをどう束ねて保存して共有するか、という仕組みなんだなぁと理解しました。

複数の仕訳データをまとめて圧縮するのですが、その時、仕訳データ本体と、まとめられた塊(=ブロック)についての情報と、ひとつ前の塊についての情報と、もうひとつの変数Xをある関数に当てはめ、その答えが一定の条件(分かりやすく言ってしまえばある数値以下になること)を満たすようなXを探しあてられたら圧縮が成功するという原理になっています。
X自体は総当たりで当てはめてみるしか探す方法がないということで、そのため圧縮時にとてつもなく大量の計算を行わなければいけません。
各塊=ブロックは前のブロックの情報を参照しているため、ある時点のデータを改竄しようとすると、その改竄が以後のブロック全てに波及し、全ブロックについて再計算・圧縮し直ししなければならず、その計算量が膨大すぎるて実質改竄が難しいため、たとえデータをパブリックに共有していても適正に保存し続けられるという仕組みになっています。

マウントゴックスの一件があって日本では長らく胡散臭く見られていましたが、果たしてブロックチェーンは(どのくらい)破壊的イノベーションなんだろうか?と気になっていたのです。

本書は、どちらかというとビットコイン・ブロックチェーンの構成要素ごと(トランズアクション、ブロック、ブロックチェーン、ウォレットなど)の解説書で、どのくらいのインパクト・応用性あるかというのは他の本あたった方がよさそうですが、仕組みの理解という意味では役に立つ一冊でした。
最初に読めてよかったかもな。

さて、次は応用についての本を読んでみよう。

 

ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術

ビットコインとブロックチェーン:暗号通貨を支える技術

 

 

「ジニのパズル」(著:崔 実)を読みました

読了。
99%はヒリヒリした感じですが、残り1%を経て読後感は清々しかったです。

「差別する日本人と差別に対し無為な朝鮮人双方にやりきれない想いを抱え、祖国に対する「革命」を試みた少女ジニの挫折と再生を描いた物語。日本の朝鮮学校からハワイを経て渡ってきたジニを、オレゴンの自然と人が優しく受けとめ癒していく。」(112字)

冒頭オレゴンの高校のシーンから始まって、日本の小学校、朝鮮学校(学年でいうと中学校相当)時代を経て、再びオレゴンに戻ってくるという全体の流れですが、主人公ジニはなんでこんなに投げやりなのかしら?という謎が読み進めるにつれて徐々に明らかになっていきます。

何があったんだろうというのと、それからどうなるんだろうというのと、ジニの溜めこんでいくやりきれなさとで、ヒリヒリ感にドライブされて一気に読み進めてしまいますが、最後の最後、ラスト数ページでジニがやっと再生を果たすと、ホッとするというかぱっと開けるというか、舞台となるオレゴンの雄大な自然の中に溶けていくような感じがします。

あいにく朝鮮学校に通う子と直接話したことはないのですが、ああこういう感じに見える子もいるんだろうなぁと感じました。

ジニのパズル

ジニのパズル

 

 

「スポーツのちから:地域をかえるソーシャルイノベーションの実践」(著: 松橋崇史,金子郁容,村林裕)を読みました

読了。

「共有施設利用に関するルール浸透や利害調整など、地域スポーツ振興のためにコミュニティが果たす役割は大きい。一方スポーツが地域のつながりを強化し地域活性化に資するケースもある。スポーツと地域が互いを活かしあうためには、支援コミュニティの充実が必要である。」(125字)

地域コミュニティがスポーツを支え、スポーツが地域コミュニティを活性化する事例集としては面白かったです。松本山雅のことは他の本で読んだことありましたが、なでしこリーグ岡山湯郷ベルガイナーレ鳥取の成りたちは初めて知った!
それまでのスポーツ業界の常識からするとJリーグがいかに画期的だったか、というのはよく分かりました。

ただ、タイトルはやや盛り気味かもしれません。
いや、勝手に期待しすぎただけか?

強い支援コミュニティがあればスポーツ振興や(プロ)チームを作るのに役立てうるのはよく分かります。
一方で、なぜスポーツがコミュニティのコミットを引き出せるのか、スポーツの何(どんな魅力?)がそうさせるのかや、スポーツに関わることでコミュニティが強化されていく仕組みについての分析はほとんどなされていませんでした。
チャリティ×マラソンに一時期浸かっていた者として、まさにそこが知りたくて本書をひも解いたのですが・・・
その分析がなければ、たとえば「スポーツ」を「まつり」に変えたとしても同じような議論ができるでしょう。

また、本書では、支援コミュニティ=ソーシャルキャピタルとして言及していますが、せっかくソーシャルキャピタルの概念を導入するなら、それがどう「キャピタル」なのかについてももっと突っ込んで分析があっても良かったと思います。
つまり、スポーツの側が支援コミュニティを使うと、どんな効能が・なぜ現れるのか(これについては本書でも言及があります)、それが今度は支援コミュニティの蓄積・厚みをどう増す(減じる)のか・それはなぜか、という分析です。
キャピタル=資本ですから、生産的に使えば蓄積がすすみ、非生産的に使えば減耗します。(ソーシャルキャピタルの先行研究の中に適用可能なモデルや整理された議論もきっとあると思うんですがねぇ。)
スポーツだって、コミュニティをいい形に巻き込めばコミュニティを強化するでしょうし、悪い形でまきこめば破壊することだってあるはずです。
うまくいくケースといかないケースを分けるものは何なのか、本書はうまくいったケースだけを紹介しているので分かりませんが、そこにこそ本書を手に取った人の知りたいことがあるんじゃないでしょうか。

とは言っても、本書は博士論文を大学出版会が著書にして出版した本なので、そこまで求めるのはやはり読む側の期待過剰ですね。

今後の著作に期待することにしましょう。

 

スポーツのちから:地域をかえるソーシャルイノベーションの実践

スポーツのちから:地域をかえるソーシャルイノベーションの実践

 

 

「日本成長戦略 40歳定年制 経済と雇用の心配がなくなる日」(著: 柳川範之)を読みました

読了。40歳も近いのでどんなことが書いてあるかなぁと思って読んでみました。

「経済環境の変化が加速する中、生産年齢人口が減少し多様な働き手が働ける勤務体系が必要な日本は従来型の終身雇用の正社員一辺倒では対応しきれない。20年程度の中期雇用正社員を認め、望む人は能力開発しながら20年に1回キャリアを変え75歳まで働くという雇用制度・教育制度・転職市場が必要である。」(140字)

イデアとしては正論だと思います。
とは言えじゃあどうしたらみんなそっちの方に行くかねぇ?というところの詰めの甘さは否めず、“ジャスト・アイデア”の提示に留まっている感はあり。

2013年の著作ですが、3年後の今となっては労働力不足ゆえ人事制度はどんどん働く人に優しくなってきているので、自ずと”正社員”の多様化も進んでいきそうな印象ではありますが。
とは言え現状では「導入する体力のある企業」と「その働き口にありつける能力を持った人」だけが提供・享受できる機会に限られてしまっているので、広く浸透させていくには何らかの制度的裏付けが欠かせないだろうと思います。

ちなみに本書はあとがきだけ読めば筆者が伝えたかったことは分かるんじゃないでしょうか。
本文もほぼ同じ内容の繰り返しなので、時間がなくお手軽に済ませたい方や、ちょっと立ち読みで済ませたい方にはオススメの読み方です。

 

日本成長戦略 40歳定年制 経済と雇用の心配がなくなる日

日本成長戦略 40歳定年制 経済と雇用の心配がなくなる日