シリア難民(著:パトリック・キングスレ-)を読みました

素晴らしいルポであればあるほど、これが現実に今起きていると思うといたたまれなくなる、そんな本です。

 

「あるシリア人難民のスウェーデンへの旅程を追いつつ、ヨーロッパを目指す難民が直面する現実を描いた一冊。難民はどれだけ危険でもそれがましな選択肢だから地中海を渡るので移動を食い止めるのは不可能である。現状、難民は移動中・移動後も迫害されている。秩序だった受け入れが必要である。」(136字)

 

タイトルはシリア難民と付けられていますが、それは本書の半分の内容。
家族呼び寄せがしやすいからとヨーロッパの中でも北方に位置するスウェーデンを目指した一人の難民の旅路を追う章と、シリア発に限らず西アフリカやアフガニスタン難民も含め、地中海を渡りヨーロッパに入ろうとする難民たちを描いた章が交互にやってきます。

 

正式なビザやパスポートさえ持たないため、難民たちは公共交通機関を使うことができず、何倍もコストがかかり何倍も危険度が高い密航業者をたよって移動しています。
難民を乗せた船の転覆事故が相次いだ地中海で何が繰り広げられ、車の荷台でぎゅうぎゅう詰めにされた難民が多数亡くなるという事件がなぜ起きたのか、その背景が本書でよく分かりました。

 

もともと祖国に居られなくなったからこそ脱出を図ったのに、一時滞在した中東の国々でも差別を受け、さらに命を危険にさらして海を渡ることを余儀なくされ、辛くもヨーロッパに渡ってからも、目当ての国にたどりつく前に捕まって送還されないかと怯え、人間らしい扱いを受けられない。
あまりにも悲惨すぎて言葉が出ません。

 

「近くで起きなくて良かった」では済まされないー。

ニュースでは顔を持たない塊りとしてしか扱われませんが、難民となった人たち、押し寄せられた欧州各地の人たち、ひとりひとりがどんな現実に直面しているのかちゃんと知るための一歩目として、本書は貴重な資料だと思います。

 

シリア難民 人類に突きつけられた21世紀最悪の難問

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