政治改革再考(著:待鳥聡史)を読みました

1980年代終わりから立て続けに実施された一連の改革―選挙制度行政改革地方分権、日銀・大蔵省、司法改革ーについて、何が目指されていたのか、実際の変革にどう落とし込まれたのかを大局的に振り返った一冊でした。

 

著者ご自身指摘されている通り、個別の領域について深く掘り下げる分析は多くありますが、全体を俯瞰し、その共通項や組み合わさった時の作用を捉えようとする本書のスタンスは特異で、貴重なものだと思います。

 

本書において著者は、目指す理念のようなものとしての「アイデア」と、それを実際に制度化するプロセスがステークホルダーがもともと有していた問題意識や多数派形成に影響を受けながら進むという「土着化」、2つの概念を使って分析を進めています。

 

それぞれの改革の「土着化」の詳細については本文に譲りますが、著者はこれら改革は「近代化」というアイデアを共有していたと指摘します。「近代化」とは、

幕末開国期あるいは少なくとも戦後初期から連綿と続く、日本の社会に生きる人々の行動と、その集積としての日本の政治行政や社会経済のあり方を、より主体的かつ合理的なものにすることを望ましいとする考え方

です。

政治改革は決して一時のブームや熱病、時のリーダーの思惑、新自由主義への布石としてなされたのではなく、日本社会のあり方を振り返り一貫したアイデアの下なされた取り組みであったのです。しかし、土着化の中で各領域間の不整合が生じ、また着手されなかった領域(参議院、地方政府内の政治制度)の影響もあって、改革が低く評価され、改革疲れや行き過ぎ批判を招いている、としています。著者は政治のあり方を望ましいものに変えていくには、不断の改革に取り組まねばならず、明確なアイデアの下、土着化による影響を少しでも抑えることが必要だ、として本書を結んでいます。

 

一連の改革が始まってから30年が経過した今時点で考えると、アイデアとしての「近代主義」そのものの妥当性の再検討も必要になってきているのではないかと思います。それぞれ自律的な主体同士で政治権力を作り出し、変化する環境に即時対応していく、という姿が目指されていたのですが、恐らく最近では個人も社会もそこまで合理的ではないし、マッチョでもないという見方が強まってきているのではないでしょうか。特に格差の拡大と情報環境の変化は、社会関係を切り結ぶ構想の前提として「己の足で立つ個」という個人像をおくことの無理さを強めているように見受けられます。
では何が?ということになりますが、個人的には「個の尊厳」や「個の尊重」がアイデアとなっていって欲しいなと思います。

 

それにしても著者の本は、構造が明快なので読み進めやすく、内容もすっと入ってきます。首相一強や、コロナ禍でいまいちなサービスデリバリーを露呈する行政など、なぜ今あるところに立ち至っているのかを大局的につかみたいという方におすすめしたい一冊です。

 

政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡 (新潮選書)

政治改革再考 :変貌を遂げた国家の軌跡 (新潮選書)

  • 作者:聡史, 待鳥
  • 発売日: 2020/05/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)