「家族の幸せ」の経済学(著:山口慎太郎)を読みました

サブタイトルにもありますが、結婚、出産、子育てなど家族をとりまく諸制度と各主体の選択の関係をデータに基づいてひも解き、どういった制度が「家族の幸せ」をもたらすのか、を分析した一冊です。

まことしやかにしやかに語られ、一般的に信じられている事柄の何が神話で何が真実なのかが仕訳けられていきます。

一例としてあげられているのが母乳保育の効果で、一歳までの子どもの健康(感染性胃腸炎アトピー性湿疹、乳幼児突然死の抑制)には効果があるものの、より成長してからの健康や問題行動の抑制にはつながらない、という分析結果が紹介されていました。

 

本書で一番紙幅がさかれており、また読んでいて印象に残ったのは、著者ご自身による研究成果である保育園と家族の幸せの関係でした。

子どもにとっても、お母さんにとっても、保育園に子どもを預けられることによる幸せ度の改善は、より時間的・経済的リソースのやり繰りが大変と推測される家庭(代替指標としてはお母さんの学歴が使われていました)で大きいということがデータで裏付けられていました。

折しも今月から幼保無償化がスタートしましたが、今の保育園制度は多分に所得逆進的な側面があると思います。
雇用形態としては一番守られている夫婦とも正社員である場合に最も保育園に子どもが預けやすくかつその費用もかからないわけで、より不安定な雇用形態で収入面でも不利である可能性がある家庭でそのサービスが利用しにくいわけですから。

著者も、上記の研究結果を踏まえつつ、質を落とさない形での量の拡大の方が必要なのではないかと提起されていましたが、本当にその通りだと思いました。

 

この他、離婚のしやすさと家族の幸せについての分析も、なかなかお目にかかれない研究成果の紹介で、興味深かったです。(離婚のしやすさは母親、父親、子どもそれぞれにとって違った効果を有しています。詳しくはぜひ本文でお読みください。)

タイトルには経済学と入っていますが、難しい公式や数式もなく、ご自身の子育てなどの体験も交えながら温かい目線で「家族の幸せ」 に考察を加えている読みやすい一冊でした。

 

「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実 (光文社新書)