2019-01-01から1年間の記事一覧

「私たちは子どもに何ができるのか」・「成功する子 失敗する子」(著:ポール・タフ)を読みました

これをやっておけば一生安泰という道がなくなり不確実性が増す一方の未来を生きる子どもが、将来成功を収めるために何が必要なのかを考察した本。2冊セットで読むことをお勧めします。 著者の主張の眼目は概要以下の通りです。 ・子どもの将来の成功のために…

神様のカルテ0(著:夏川草介)を読みました

神様のカルテシリーズ、3巻まで進んだ後に発刊された本書。一止たちが医学生だった頃や、研修医時代など、シリーズが始まる前の前史を綴った短編集でした。 他3冊と同じく、本書もやはりストーリー・文章ともに素晴らしかったです。 シリーズのタイトルをそ…

セメントの記憶(監督・脚本:ジアード・クルスーム)を観ました

昨日、公開初日に観てきました。 破壊が続く故国シリアを逃れ、復興の建設ラッシュに沸くレバノンで働く移民労働者の苦難を描いた映画です。 配給会社や観客の方からは詩的な映像美との賛辞が送られてましたが、自分としてはぴんと張り詰めた画という印象で…

日本の夜の公共圏:スナック研究序説(著:谷口浩一、スナック研究会)を読みました

「スナック」とはいかなる社会空間かを、法学・政治学・文学等の研究者たちが各々の専門分野の視点から考察した一冊。スナックがどのような法規制の下今あるような業態にたどりついたのか、また開業・経営に当たってはどのような届出や基準を求められるのか…

美容整形というコミュニケーションー社会規範と自己満足を越えて(著:谷本菜穂)を読みました

なぜ人は美容整形を受けるのか? 一般的には社会規範(美しくあるべき、という社会〔特に異性〕からの圧力)によるという見方と、当該個人が身体改変を通してアイデンティティを再構築しようとしているという見方がなされてきました。 しかし著者自身の先行…

地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門(著:木下斉)を読みました

家業を畳みに地元に帰った主人公が気付くと実家の再生・地元の活性化に奔走するというストーリー仕立てで、地域再生に取り組む上での心構えや留意点を伝えている本。ストーリー自体は若干出来すぎの感もするものの、その分展開が早くてすいすい読み進められ…

恋文の技術(著:森見登美彦)を読みました

大学院の研究のため、大学のあった京都から石川県の研究所に1人”飛ばされた”守田一郎が、大学の後輩、先輩、元家庭教師の教え子らに送った手紙でストーリーが進んでいく書簡体の小説。書簡体小説は湊かなえの『告白』以来でしたが、どちらも傑作で、面白い小…

ファンベース(著:佐藤尚之)を読みました

なんと今や世界中の砂浜の粒の数より情報量が多いそうである。そうなると、単発型のの広告施策はおよそターゲットに届きにくくなっている。だからこそ、今後のセールスは既に関心を持ち、好ましく思ってくれているファンをベースに行うほうが有効である。(…

<ヤンチャな子ら>のエスノグラフィー(著:知念渉)を読みました

ヤンキーと呼ばれる子たちはどのように学校生活を送り、どのように労働市場に出ていくのか ー 著者は実際に高校で<ヤンチャな子ら>と三年間を共に過ごし、中退・卒業後もインタビューを続けて分析を行った。 これまでのヤンキーについての研究は、ファッシ…

インターネット的(著:糸井重里)を読みました

本書の初版は2001年刊。折しもインターネットが一般に普及しようかという頃に、インターネットそのものよりもそれを介して何ができるか、人と人との関りがどう変わっていくか、インターネット的なあり方や思考法、表現法について論じた本。 インターネット時…

引き裂かれた大地:中東に生きる六人の物語(著:スコット・アンダーソン)を読みました

ついに希望が訪れたと思われていた「アラブの春」は、なぜこんな結末になってしまったのか?イラク、リビア、シリア、エジプトに生きる6人を透かし絵にして、その背景に迫った一冊。 ヨーロッパ各国による植民地支配からの独立に際し、民族の多様性を考慮す…

知識人と差別について考える本を読みましたー「知識人とは何か」・「ポスト・オリエンタリズム」

言説を生み出す知識人は差別を糾弾・排撃する側にも、助長する側にもなりうる。 オリエンタリズムの著者であるエドワード・サイードの「知識人とは何か」と、その後継者と目されるハミッド・ダバシの「ポスト・オリエンタリズム」に通底する問題意識はそこに…

アジアに生きるイスラームを読みました

イスラムと言えば発祥の地でもある中東のものというイメージが強いのではないでしょうか。スンニ派とシーア派、そしてワッハーブ派など、宗派が各国・各勢力間のパワーゲームの大義名分にも使われ、それぞれどんなものなのかについての解説も折に触れ目にす…

差別について知る本2冊を読みましたー「憎しみに抗って」・「世界と僕のあいだに」

世界がだんだん「異なるもの」を受け入れる余裕をなくしていっているんじゃないかー直感的にそう感じていて、実際どんな事態がどう起こっているのか知りたくて、差別についての本を2冊読みました。 一冊目は、ドイツ人ジャーナリストのカロリン・エムケが著…

「未解」のアフリカ:欺瞞のヨーロッパ史観(著:石川薫、小浜裕久)を読みました

ヨーロッパに「発見」されたアフリカの歴史を、アフリカ側から捉え直して解説した一冊。 世界史の資料集でチラッと目にするだけだったアフリカに存在していた諸帝国がどんな経済力を持っていて、それがどういう経過をたどってヨーロッパ諸国に組み伏せられて…

遅刻してくれて、ありがとう(著:トーマス・フリードマン)を読みました

「フラット化する世界」の著者が、今現在世界に働いているダイナミクスとその影響、それにどう対応していくべきかを考察した本。タイトルには加速度的に変化が起きフローが激しい今だからこそ、ちょっと立ち止まって考えてみようという意味が込められている…

ヌヌ 完璧なベビーシッター(著:レイラ・スリマニ)を読みました

パリで暮らす若い夫婦の幼い子ども二人が殺害された ー子どもの世話はもちろんのこと、家事のサポートも存分にこなす完璧なはずのベビーシッターに。なぜこんな痛ましい事件が起きたのか、キャリアも含む両親それぞれの日常と、ベビーシッターの感情のすれ違…

選べなかった命ー出生前診断の誤診で生まれた子(著:河合香織)を読みました

出生前診断の誤診(医師による見落とし)により障害を持つ子どもが産まれ、合併症からわずか1か月半で苦しみながら死んでいくという経験をした夫婦が、誤診をした医師を訴えた。産まれた後の医師の手のひら返しの対応に憤り、子どもに謝ってほしいという思い…

見知らぬものと出会う:ファースト・コンタクトの相互行為論(著:木村大治)を読みました

見知らぬものとのコミュニケーションがどうやって成立するのか?宇宙人とのファースト・コンタクトという極端にも思えるケースを想定し、相互行為論に基づき考察している一冊。 相互行為論というものに初めて接したのですが、哲学、人類学、言語学などまたが…

どもる体(著:伊藤亜紗)を読みました

吃音、いわゆるどもりとはどういった現象なのかを当事者である著者が解説している本。 どもりにも同じ音が続けてでる連発、言い出しの言葉がでない難発、どもりが起きそうな予感に備え言葉を置き換える言い換え 、と複数パターンがあることを初めて知りまし…

築地ー鮭屋の小僧が見たこと聞いたこと(著:佐藤友美子)を読みました

読めば読むほど「しまった!」と思わされる本。 何がって、場内市場が移転する前に築地にもっと行って、この身で街を体験しておけばよかった、という後悔が読み進めるたびに何度も沸き起こってくるのです。 フリーのライターとして30歳を目前に控えた著者が…

福岡市が地方最強の都市になった理由(著:木下斉)を読みました

もうだいぶ前になりますが、福岡に遊びに行った時に「暮らしやすそうな街だな」と漠然と感じたことを、データを挙げて解説してくれたり、またなぜそうなったのか・どんなと仕組みをしたのかを分かりやすくひも解いてくれていて、「ほぉ~、そうだったんだ」…